Composite reconstruction of latest Cretaceous therizinosaurid---using Erlikosaurus skull and pes, Nanshiungosaurus neck and torso, Therizinosaurus forelimb (and pes), and Nothronychus hindlimb and tail.
Scale bar is 1m for Therizinosaurus cheloniformis MPC-D 100/15.
6周年である。小学生が中学生になるわけで、まあうまい具合に骨格図はちらほら見かけるようになったわけである。
まもなく閉幕する恐竜博2019の目玉の一つが、デイノケイルスの復元骨格――3体からなるコンポジットだったわけである。系統関係についてはここ20年あまりでほぼコンセンサスが得られていたとはいえ、ホロタイプ――肩帯と前肢だけで復元がおぼつくはずはなく、2体の新標本の重要性については今さら書くまでもない。
さて、モンゴルはネメグト層といえば、デイノケイルスのほかにももうひとつ、巨大な(この場合あくまでも絶対的なサイズであり、デイノケイルスにおいては前肢は特別目立つプロポーションではなかった)前肢をもつ恐竜が知られている。デイノケイルス・ケロニフォルミスはデイノケイルスより以前から知られていた種であるが、しかし今日に至るまで、肩帯と前肢、わずかばかりの肋骨と足が知られているだけなのであった。その一方で、ここ20年、我々はテリジノサウルスの姿についてなにがしかのコンセンサスらしいビジュアルを見続けてきた。――グレゴリー・S・ポールによる、「テリジノサウルス類」の復元である。
テリジノサウルスのホロタイプPIN 551-483が発見されたのは、1948年のソ連モンゴル遠征においてであった。これは巨大かつ妙に薄っぺらな前肢の末節骨(の破片)が3本ぶんと、やたらごつい肋骨の破片、それから長骨の破片(原記載では中手骨とされたが、実際には中足骨であるようだ)からなっており、当時の知見からしてみれば恐竜とは同定しがたい代物だった。テリジノサウルスの肋骨は何ともなしにプロトステガやアーケロンと比較され、かくして「巨大なカメ様の爬虫類」として記載されたのであった。1970年になってようやく、ロジェストヴェンスキー(ここぞというときに存在感を発揮する)によって獣脚類として再記載されたのである。
(ロジェストヴェンスキーはこの時、テリジノサウルスの前肢について、シロアリの塚を崩したり、木の実を集めるためのものと推察している。このあたり、ロジェストヴェンスキーの非凡な才がうかがえる。)
テリジノサウルスの前肢の実態が明らかになったのは、1976年になってからであった。バルスボルドによって記載されたそれは部分的な肩甲烏口骨と前肢の大半、それから肋骨要素からなっており、テリジノサウルスと同定するのはたやすいことであった。復元された前肢の長さは2.5mに達し、テリジノサウルスはデイノケイルスをも上回る巨大な前肢の持ち主であることが明らかになった――が、その全体像はまったくの闇の中にあった。バルスボルドはテリジノサウルスがデイノケイルスと近縁である可能性を指摘したが、前肢のサイズ以外に特別な類似もなかったのである。
1970年代の終わりから80年代にかけてセグノサウルス類の化石が続々と発見されるようになるにつれ、どうもテリジノサウルスがセグノサウルス類と近縁である可能性がささやかれるようになった。ヘルミンツァフで発見された部分的なセグノサウルス類の足は、(特に重複する部位はなかったのだが)どうもテリジノサウルスの気があったのである。
1980年代の半ば過ぎには(依然として恐竜類の中での位置付けははっきりしなかったのだが)セグノサウルス類の姿は何となく復元できるようになっていた。エルリコサウルスの頭と足にナンシュンゴサウルスの首と胴、セグノサウルスの前後肢。4足歩行にさえ復元されたこの奇怪な恐竜の分類を決定付けるためには、アラシャサウルスの発見を待たねばならなかったのである。
アラシャサウルスの発見により、テリジノサウルスとセグノサウルス類がごく近縁であること(セグノサウルス類はそのままテリジノサウルス類と呼ばれるようになった)、そしてテリジノサウルス類が獣脚類であることが明白となった。ここに至り、ポールはそれまでちょこちょこ露出のあった自前の「セグノサウルス類の合成骨格図」にテリジノサウルスの前肢をぶち込んだ。かくして、「テリジノサウルスの復元画」のイメージが定まったのである。
それから20年以上が過ぎたが、今日でもポールによる合成骨格図はテリジノサウルスの復元のベースとして用いられている。もっとも、ノスロニクス、スジョウサウルスの発見により、ポールの合成骨格図からもう一歩踏み込んだ解像度での復元が可能となっている昨今でもある。
デイノケイルスの全身骨格が復元できるようになった今日、テリジノサウルスの全身骨格の発見にも期待がかかる。いかにそれらしく復元できるようになったとはいえ、テリジノサウルスそのものの確実な骨格要素は、ほぼ前肢のみに限られているのが現状なのだ。デイノケイルスの系統関係はしばらく前から(おおざっぱに)定まっていたとはいえ、発見された骨格はそれまでの「復元」とはかけ離れたものであった。実のところ「鎌状」の末節骨をもつテリジノサウルスの前肢はテリジノサウルス類の中でもぶっ飛んだ形態であるのだが、ではそれ以外はどうだろうか。