GET AWAY TRIKE !

恐竜その他について書き散らかす場末ブログ

巨人たちの母

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 アリノケラトプスArrhinoceratopsといえば、一般にはマイナーではあるものの、最近の子供向けの図鑑にはたいてい名前が出ている程度には有名であろう(断言)。命名自体もそこそこ古い(1925年)アリノケラトプスではあるが、意外と謎の多い角竜でもある。化石はカナダのアルバータ州、ホースシュー・キャニオンHorseshoe Canyon層のホースシーフHorsethief部層とモーリンMorrin部層(マーストリヒチアン初期)から発見されている。

 そもそもの原因は、模式標本であるROM 796の保存状態があまり良くなかったことである。頭骨要素は完全にそろっているのだが、保存状態そのものはあまり良くなく、思わせぶりな亀裂などもあってパークス(原記載者)は縫合線の同定を派手に間違えた。模式標本を補完すべき参照標本はさらに保存状態が悪く、80年代におこなわれたアリノケラトプスの再記載では、アリノケラトプス・ブラキオプスA. brachyopsに含めるべきか疑問視される始末であった。これとは別にユタで発見された化石(過去記事参照)もアリノケラトプス属(A.ユタエンシス)に分類され、さらに面倒な状況となった。

 近年の系統解析では、アリノケラトプスがトリケラトプス族Triceratopsiniと姉妹群をなす。解析(簡便なものではあったが)によってはトロサウルス属と姉妹群をなすことさえあり、実際トロサウルスとかなり似ている。
 今年(2014年)になって、アリノケラトプスの再々記載がおこなわれた。ここで主役になったのが亜成体ROM 1493である。元々80年代の再記載の時にcf. A.ブラキオプスとされた標本なのだが、保存状態が悲惨(フリルはともかく頭骨本体はぐしゃぐしゃに潰れていた)だったり、フリルの形態がトロサウルスに似ていたためにトロサウルス・ラトゥス(!)に分類されたりと散々な目にあってきた(?)標本である。保存状態のよい下顎や癒合頸椎、模式標本では形態のはっきりしなかった縁後頭骨、そして部分的ながら肩帯と前肢を含んでいる。

 この標本の研究で、今まで知られていなかったいくつかの重要な特徴が明らかとなった。パッと見でわかりやすい特徴としては、斜めになった前歯骨の咬合面があげられる。この特徴は従来セントロサウルス亜科のみの特徴とされていたが、カスモサウルス亜科に属するアリノケラトプスもこれを保持していたわけである。アリノケラトプスの前上顎骨の下縁が張り出していることは知られていた(これもセントロサウルス類的な特徴と言えばその通りである)が、これに対応して前歯骨も特殊化していたということらしい。何かしら食性に対応していたのかもしれない。セントロサウルス類に収斂進化したと想像するのも面白いところだろう。

 ROM 1493の新情報に基づく系統解析はかなりややこしいことになった。アンキケラトプスとアリノケラトプス、トリケラトプス族、それ以外のカスモサウルス類をひっくるめたクレードがそれぞれ姉妹群(!)となったのである。実際これはかなり暫定的な代物(少なくとも、同様にROM 1493のデータを組み込んでいるはずのロングリッチの系統解析では比較的従来の系統解析に近い代物になっている)だろうが、少なくとも従来大まかにコンセンサスを得られていたカスモサウルス類の系統解析に揺さぶりをかけるものである。
 
 筆者の私感ではあるが、ROM 1493の頭頂骨は(一時期トロサウルスにされていただけあって)トロサウルス・ラトゥスにかなり似ている。一方で、(成長過程でかなり変化するようだが)鱗状骨の後端の形態などはエオトリケラトプスに似ているように見える(そして吻の形態はアリノケラトプスの模式標本と(当然?)よく似ている)。体骨格は部分的ながらかなりがっしりしているらしいことがうかがえ、この辺はトリケラトプス族と遜色ないようにも見える。(肩甲烏口骨の形態からして、アリノケラトプスと例のCMN 8547は結局別種のようだ。)
 結局のところ、ROM 1493の保存状態はかなり悪い(そして、少なくとも模式標本ROM 796よりは若い個体らしい)。模式標本と合わせても、まだまだ見えていない形質は多そうである。実のところ、従来言われていた以上にトリケラトプスに近縁ではないかと思っていたりする筆者だったりする。