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恐竜その他について書き散らかす場末ブログ

アウグスティノロフス、あるいは“カリフォルニアのサウロロフス”

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↑アウグスティノロフス・モリシAugustynolophus morrisiの骨格図。
模式標本LACM/CIT 2852(成体)とLACM/CIT 2760(亜成体)に基づく。
体骨格はかなり完全だが、仙椎や腰帯、肋骨の多くを欠いている。プロポーションは写真やサウロロフスの骨格に基づくものであり、あまり信用してはいけない。
スケールは1m

 なんともなしにブログのネタ集めを兼ねてさまよっていたら、たまたまアウグスティノロフスの記載論文がフリーになっていたことに気付いたわけである(こういうことは稀によくある(ブロント語))。以前にもちょこっと記事にしていたネタではあるのだが、新属として再記載されたことでもあるし、「カリフォルニアのサウロロフス」について改めて書きたいと思う。

 カリフォルニア州には上部白亜系が点在しており、1920年代にはすでに石油探査がおこなわれていた(その過程で州最初の恐竜化石であるLACM/CIT 519(ハドロサウルス類の上顎骨の破片)が発見された)。カリフォルニア州中央部にはモレノMoreno層(マーストリヒチアン前期~ダニアン、7000~6100万年前ごろ。「カリフォルニアのサウロロフス」が産出したのはマーストリヒチアン後期にあたる部層である)が点在しており、カリフォルニア工科大学によって1939年の夏にハドロサウルス類の骨格が発見されたのであった。
 この標本(のちにLACMに移管されLACM/CIT 2760となる)には頭骨の大部分と、部分的な前後肢が含まれていた。翌1940年には、(おそらく)マルカMarca部層から関節したほぼ完全な骨格(LACM/CIT 2852)も発見されたのである。
 2760も2852も、不幸にして保存状態はかなり悪かった(2852は生前の姿勢をほぼ保った状態ではあったのだが、写真を見る限り、化石化する前にちょっと腐乱したようにも思える)。2852は石膏でかなり復元された上でウォールマウントとなり、カリフォルニア工科大学で展示されてからは特に顧みられることもなく30年以上の年月を過ごすこととなった。

 さて、ここで本ブログの読者にはすでにおなじみ(でもない)W.J.モリスの登場である。バハ・カリフォルニアで巨大なランベオサウルス類の化石を発見したモリスは、それと合わせてカリフォルニア産のハドロサウルス類のレビューもおこなうことにしたのである。かくして、太平洋岸のハドロサウルス類のレビューが1973年に発表されたのであった。
 この時モリスはバハ・カリフォルニア産の巨大なランベオサウルス類をcf.ランベオサウルス sp.  とし(過去記事参照)、モレノ層産ハドロサウルス類をcf.サウロロフス sp.とした。この時先述のウォールマウントは(半ば無理やり?)解体され、LACMに収蔵されることとなったのである。モリス自身はこれらcf.サウロロフスの産地がモレノ層であることに疑念を持っていたのだが、何はともあれLACM/ CIT 2760と2852、そしてUCMP 32944(尾椎と後肢の一部)は分類学的位置を手に入れたのである。

 それ以降、「カリフォルニアのサウロロフス」は一般に知られることはなかった。知る人ぞ知る恐竜であり続けたのだが、LACMのリニューアルに合わせて2852の頭骨(と尾)が再展示され、そして2010年になって転機が訪れる。

 サウロロフスの模式産地はカナダ・アルバータ州のホースシューキャニオンHorseshoe Canyon層(マーストリヒチアン前期)である。また、モンゴルのネメグトNemegt層(マーストリヒチアン前期?)からも知られているのは読者の皆様にはご存じの通りだろう。一方で「カリフォルニアのサウロロフス」はアメリカの西海岸、しかもマーストリヒチアン後期である。もし仮に「カリフォルニアのサウロロフス」がサウロロフス属であるなら、ロッキー山脈(当時すでに発達過程にあった)を越えて生き残っていたということになる。しかし、LACM/CIT 2852の頭骨の保存状態は劣悪であり、再記載の結果ハドロサウルス亜科の未定種Hadrosaurinae indet.とされてしまったのである。

 これに対し、翌年には反論が出された(公式に出版されたのは2013年になってからだったが)。LACM/CIT 2760(もろもろの理由から、2852と同じ種であると見て間違いない)の頭骨は明らかにサウロロフス属と考えるに足り、2852にもサウロロフス属と共通する特徴が残されていた。一方でいくつか新しい特徴も認識され、サウロロフス属の新種、サウロロフス・モリシSaurolophus morrisi命名され一件落着…したかに見えた。

 実はこの時点でLACM/CIT 2760のクリーニングは完了していなかった。頭蓋天井のクリーニングでクレストの先端がくっついていたことが判明したのだが、その形態はサウロロフスの他の種と明らかに異なるものであった。
 クリーニングが終わってみれば、「カリフォルニアのサウロロフス」とサウロロフスとの差は明らかであった。アウグスティノロフス・モリシAugustynolophus morrisiの誕生である。

 新属として独立したとはいえアウグスティノロフスはサウロロフス属とごく近縁(姉妹群)である。プロサウロロフスProsaurolophusと分岐(というよりは直接進化したのかもしれない)してからロッキー山脈を越えた一群がアウグスティノロフスとなり、北へ向かってからベーリング海峡を越えたものがサウロロフス・アングスティロストリスS. angustyrostris、海峡を越えずアルバータに留まったものがサウロロフス・オズボーニS. osborniと考えておくのが無難なようだ。
 
 未だに白亜紀末期の北米西海岸の恐竜相は謎に包まれている。ロッキー山脈を越えたその先にどんな恐竜たちが最後の繁栄を謳歌していたのか、想像をたくましくするしかないのが現状である。