GET AWAY TRIKE !

恐竜その他について書き散らかす場末ブログ

暴君王の遍歴(後編)

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Top to bottom, "Dynamosaurus imperiosus" BMNH R7994 (in part),
Tyrannosaurus rex holotype CM 9380, 
Tyrannosaurus rex AMNH 5027,
Tyrannosaurus rex FMNH PR 2081.
Scale bar is 1m.

 前回からだいぶ間が空いてしまったのだが、しれっと続きを書きたい。だいぶ内容を忘れている方もいらっしゃるだろうが。。。

 さて、1915年に完成したAMNH 5027の復元骨格は、当時最高のプレパレーターによって、当時最高の技術の粋を集めて作られていた。
 不足部位には奇跡的にほぼ同サイズだったAMNH 973のキャストがあてがわれ、それでもなお不足する部位はアロサウルスを参考にして製作されたパーツが組み込まれた。また、とてつもなく重く、かつ貴重な存在である頭骨をあえて骨格に組み込むことはせず、軽量なレプリカが代替とされた。さらに、復元骨格は台座ごと移動が可能な作りとなっており、展示室のレイアウト替えにも容易に対応できるようになっていた。(実際、1920年代になってAMNHの増築がおこなわれた際に、他の展示骨格もろとも移動させられている。この時、ついでに腕もゴルゴサウルスベースの2本指に交換された。)
 この堂々たるAMNH 5027の復元骨格は、その後数十年に渡ってティラノサウルス唯一の復元骨格であり続けた。この骨格の存在によって、「ティラノサウルス」の名はもっとも有名な恐竜のひとつとなったのである。

 AMNH 5027の復元骨格が完成してから20年以上が過ぎた1941年、世界には大戦の嵐が吹き荒れていた。オズボーンはすでに亡く、AMNHはしばらく前から財政難に悩まされていた。
 金欠のAMNHには最後の切り札があった。「戦火を避けるため」に、AMNH 973―――ティラノサウルス・レックスの模式標本―――をカーネギー自然史博物館に売却するのである。アメリカが参戦する以前から交渉は進められており、AMNH 973はAMNH 5027のキャストなどと合わせて10万ドル(現在の価値で170万ドル)にてカーネギー博物館へ売却された。
 AMNH 973の完全度はそう大したことはない(しかも、実物頭骨はオズボーンの旧復元に合わせて石膏に埋め込まれていた)。よってカーネギー自然史博物館のスタッフは容赦なくAMNH 5027のキャストとAMNH 973―――今やCM 9380―――を組み合わせ、2体目となるティラノサウルスの(実物)復元骨格を突貫工事で作り上げたのだった。

 時は流れて1960年、すったもんだあって元ディナモサウルス―――AMNH 5866は、ロンドンの自然史博物館へと売却され、BMNH R7994となった(この時一緒に、AMNH 5881なども売却された)。“ディナモサウルス”はAMNH 5027などのレプリカと合体させてウォールマウントとして組み上げられ、モダンスタイルで組み上げられた最初のティラノサウルスとなった。かくして皇帝の復権となったのである。

 やがて恐竜ルネサンスの波が業界を覆い尽くし、そしてリノベーションの波が生まれた。世界の有名博物館は続々とリニューアルを開始し、そのとばっちりであっけなく“ディナモサウルス”は解体されてしまった。
 AMNHのリニューアルの目玉のひとつとしてAMNH 5027も解体され、組み直す過程で尾が短縮され、頭骨も“新型”へ換装された。一方でアルクトメタターサルのない足はそのまま残され、今日みられるAMNH 5027へと生まれ変わったのである。
 AMNHに遅れること10年余りでカーネギー自然史博物館もリニューアルをおこない、この時CM 9380の復元骨格も解体された。上塗りされた樹脂や石膏が慎重に取り除かれ、組み直されたCM 9380はMOR 980のキャストと向かい合う形で展示されたのだった。かつてのオズボーンの宿願が、ライバルだったカーネギー自然史博物館の手によって再現されたのである。

 一方、華やかなリノベーションの陰で、ひっそりとマノスポンディルスが息を吹き返しかけていた。マノスポンディルスがティラノサウルス類(というかティラノサウルスそのもの)である可能性はとうの昔にオズボーンによって指摘されていたのだが、風化の進んだ椎骨ふたつ(実質ひとつ;AMNHに収蔵された時点でひとつは行方不明になっていた)ではどうにもならないということで、マノスポンディルス・ギガスは疑問名となっていたのである。
 2000年になってBHIがサウスダコタで発見したティラノサウルスの部分骨格は、状況からして誰かの掘り残し―――おそらくはコープの―――だった。かくしてマノスポンディルスがティラノサウルスのシニアシノニムと断言できる可能性が急浮上した・・・が、結果は皆様ご存じの通りである。

 数奇な運命を辿ったこれらの標本たちだが、今なお元気(?)である。模式標本CM 9380は美しく組み直され、足元に因縁のCM 1400を従えている。“ディナモサウルス”も復元骨格が解体されこそしたが、歯骨などは現在でも展示されているという。また、「ディナモサウルスの皮骨(BMNH R8001)」はアンキロサウルスの皮骨の配置を明らかにするうえで重要な役割を担った。そしてAMNH 5027は今なおティラノサウルスの“顔”として君臨している。