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恐竜その他について書き散らかす場末ブログ

恐竜王国2012始末記特別編:王氏層群③ 将軍頂層

 恐竜王国始末記特別編(長い…)第3回は、将軍頂Jiangjunding層の恐竜である。前回と比べて知名度も何もない恐竜たちであるが、興味をもっていただけたなら幸いである。

 将軍頂層の発掘が始まったのは1923年と、中国の発掘では最初期にあたる。中国政府(中華民国…か)のお雇い外国人であったアンダーソン(スウェーデン人)の求めに応じてC.ワイマン(ニューメキシコの恐竜の研究でも有名な人)の推薦を受け、O.ツダンスキーが中国へと派遣された。北京原人の歯を発掘したりしつつ、譚錫畴と共に1923年の春から山東半島で発掘を行った。
 手始めに蒙陰Mengyin層(白亜紀前期バレミアン、1億2900万~1億1300万年前)でエウへロプスEuhelopus(原記載時はまだへロプスHelopusだったが)やステゴサウルス類の化石を発掘し、そしてたどり着いたのが将軍頂層だったのである。
 大規模な発掘はこれっきりだったようだが、現在再調査の兆しが出ているらしい。最初の調査で発掘が行われた範囲はかなり限られていたらしく、手つかずの場所もあるようだ。

獣脚類
 現時点では、将軍頂層産の獣脚類化石で学名が付いたものは存在しない。単離した椎骨がほとんどなのだが、最近の研究でティラノサウルス類(タルボサウルス・バタールの可能性アリとされている)やオルニトミモサウルス類と同定されている。この年代(カンパニアン後期?)のオルニトミモサウルス類のアジアにおける化石記録は内外モンゴルがほとんどであり、なかなか貴重であろう。(とはいえ、オルニトミモサウルス類として同定されたことに関する驚きは何もないが…)

鳥脚類
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↑タニウス・シネンシスの模式標本PMU R.240 

 ツダンスキーと譚らによって発見されたハドロサウルス類(すったもんだあって現在ではハドロサウロイドに格下げされたが)は、1929年になってタニウス・シネンシスTanius sinensis命名された(同時にへロプス・ツダンスキイHelopus zdanskyi命名された。学名に譚とツダンスキーの名を入れて労をねぎらった感じである)。
 模式標本(ほぼ完全な後頭部:上図)のほか、椎骨や肩帯、腰帯などが発見されている(標本番号は割り振られていないらしい。模式標本と同一個体かどうかは微妙らしいが…誰か記載論文持ってたりしませんかね(殴)。
 頭骨の細かな特徴などはバクトロサウルスBactrosaurusに似ている。もとはハドロサウルス科とされていたが、バクトロサウルスともども近年ではハドロサウルス上科に置かれている。プロトハドロスProtohadrosとバクトロサウルスの間に位置するようだ。
 胴椎(本当にタニウスか疑問がないわけでもないらしいが、一般にタニウスのものとされている)の棘突起は高く発達しており、何らかの“帆”が背中に存在していたことを示している。

角竜類
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↑ミクロパキケファロサウルス・ホントゥヤネンシスの模式標本IVPP V 5542
スケールは1m。頭頂骨―鱗状骨の形態は信用してはいけない

 1972年の夏に将軍頂層の別のサイトで発掘が行われ、部分的な鳥盤類の骨格が発見された。1977年になって、この標本には“肥厚した頭骨”がみられることから堅頭竜類の新種としてミクロパキケファロサウルス・ホントゥヤネンシスMicropachycephalosaurus hongtuyanensisという凄まじく長い学名(属名は最長だとかなんとか)が付けられた。
 最近になって再記載が行われた際、肝心の頭頂骨と鱗状骨が行方不明になっており、(所せんせーのブログに模式標本の写真があるが…後肢と椎骨と方形骨+歯骨の断片以外何が何だか)体骨格には堅頭竜類特有の構造がみられないことから、分類不詳の角脚類Cerapoda(鳥脚類と周飾頭類(角竜と堅頭竜類)を合わせたグループ)にまで落ちぶれた。
 最終的に、基盤的な角竜類(インロングYinlongと姉妹群!)として落ち着いて今に至っている。
 非常に小型の角竜である(原記載時には全長50~60㎝とまで言われていた。さすがにそこまでは小さくなかったが…)。頭頂骨と鱗状骨が行方不明になったこともあってはっきりしたことはわからないが、基盤的角竜にありがちな形態をしていたと思われる。凄まじく原始的な角竜(近縁とされるインロングはジュラ紀中期の恐竜である)が白亜紀の末期近くまで生き延びていたという点で、非常にユニークである。
 
鎧竜類
 ツダンスキーらによって部分的なアンキロサウルス類(ほぼ完全な骨盤を含む)が発見されている。この標本は1995年になって、ピナコサウルス・cf. グレンジャーリPinacosaurus cf. grangeriとして分類されている。分類の妥当性はともかく、紅土崖層中部産のアンキロサウルス類との比較が楽しみである。
 また、一応ワイマンによってノドサウルス類らしき化石(詳細不明…ひょっとすると↑のアンキロサウルス類のことかもしれない)も記載されている(らしい)。

 これまた一応、不定竜脚類とされる化石(詳細不明)もワイマンによって記載されているそうである。ほぼ間違いなくティタノサウルス類だろう。辛格庄層産のティタノサウルス類と比較できるか…?


 駆け足だが将軍頂層産の恐竜について解説してみた。断片的な標本がほとんどだが、いずれも興味深いものが揃っている。大規模な再調査の暁には、かなりの成果が期待できそうだ。

次回は金崗口層編
「ところで俺のクレストを見てくれ。こいつをどう思う?」
「すごく…大きいです…」