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恐竜その他について書き散らかす場末ブログ

恐竜王国2012始末記特別編:王氏層群④ 金崗口層・常旺鋪層

 始末記特別編も4回目(長い)。前回予告したとおり金崗口Jingangkou層の恐竜について解説したい。また、常旺鋪Changwanpu層についても、今回まとめて紹介したいと思う。
 
 さて、第2次大戦の後も色々とあった中国だったが、もろもろの末に中華人民共和国が成立したわけである。それからほどなくしてIVPP(中国科学院古脊椎動物・古人類研究所:早い話が国立の化石系の研究所である)の前身が設立され、戦争で中断していた中国の恐竜研究が再出発した。
 1950年の初夏、山東半島金崗口層で、恐竜の頭骨と卵の化石が発見された。翌1951年にC.C.ヤングこと楊鍾健(中国の恐竜研究において最初期から携わった研究者)率いる調査隊が山東半島を訪れ、大量のハドロサウルス類と卵の化石を採集した。(ついでに、山東半島の下部白亜系からプシッタコサウルス・シネンシスも発見した)
 また、その後も何度か(?)追加調査が行われ、ハドロサウルス類を中心とする追加標本が発見されている。


獣脚類
 金崗口層からは断片的な獣脚類しか発見されておらず、その実態はやぶさかではない。
 唯一金崗口層から命名された獣脚類がチンカンコウサウルス・フラギリスChingkankousaurus fragilisである。肩甲骨ブレード(だけ)に基づいて命名された恐竜であり、最近まで分類は混乱していた。ここ20年余りでティラノサウルス上科(タルボサウルスの可能性アリ)という分類に落ち着いている。お察しの通り疑問名である。
 また、cf. スーチュアノサウルス・キャンピSzechuanosaurus campiとされた化石(歯?)も発見されている。カルノサウルス類でないことは確実だろう。
 この他、単離した胴椎(ティラノサウルス類らしい)も見つかっている。

鳥脚類
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↑チンタオサウルスとタニウスの頭骨の比較。タニウスは将軍頂層の産出であり、チンタオサウルスよりも古い時代である点に注意。

 金崗口層産の恐竜で最も有名なものが、何を隠そうチンタオサウルス・スピノリヌスTsintaosaurus spinorhinusである。模式標本(部分的な頭骨)のほか、多数の部分的な骨格・頭骨が発見されている。
 鼻骨と前頭骨からなる角状のクレストが特徴的であり、あまりに突拍子もない特徴であったこともあって化石化の過程で変形した結果であること、ひいてはタニウスのジュニアシノニムに過ぎないと言われた時期もあったが、すったもんだの末に「トサカの一部」であることが判明した(過去記事参照)。
 また、金崗口層からはタニウス・チンカンコウエンシスTanius chingkankouensisとタニウス・ライヤンゲンシスT. laiyangensisが記載されているが、今日ではこれらはタニウス属ではなく、チンタオサウルスのジュニアシノニムないし疑問名とされている。

角竜類
イメージ 2
↑金崗口層産の“プロトケラトプス・アンドリューシProtoceratops andrewsi
おそらくはレプトケラトプス類と思われる。スケールは1m

 1984年になって、金崗口層から部分的な小型の角竜の化石が発見された(上図。図示したほかに脛骨や椎骨も発見されているという)。8m上の層準からもう1体(最初のものとおそらく同一種)の小型角竜も発見されており、そちらには肩甲骨や肋骨、腓骨も含まれているという。(付近から卵化石も見つかっているそうな)
 何をもってプロトケラトプス、しかもよりによって模式種のP. アンドリューシと同定したかはよく分からない(いかんせん論文が中国語なのだが、ざっと見たところ同定の根拠は示されていないようだ)。歯骨と角骨・上角骨の縫合線を見る限り、レプトケラトプス科Leptoceratopsidaeに属するように見える。ズケンケラトプスとは明らかに下顎の形態が異なり、新種の可能性が高いように思える。

 詳細は不明だが、金崗口層からも竜脚類の化石が発見されている。詳しい研究は行われていないが、ティタノサウルス類と考えていいだろう。

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 金崗口層ではこのように、興味深い標本がいくつか見つかっている。その上位、王氏層群の最上位層である常旺鋪層からも恐竜化石が発見されているのだが、現状では詳しい研究はなされていない。不定のハドロサウルス類と竜脚類(ティタノサウルス類だろう)が発見されているとのことである。


 以上、足かけ4回に渡って王氏層群の恐竜について概説してみた。(おそらく)カンパニアン中期~マーストリヒチアン前期の恐竜相が比較的よく分かっているのは、アジアでは内外モンゴルの他には王氏層群くらいしかないのが現状である。
 恐竜王国2012はその辺りに着目したあたり野心的だった(ということにしよう)が、結果は大惨事お察しください。このあたり、馬鹿でかい竜脚類でもいないことには採算が取れない(というか、ぶっちゃけこの手のやつ全部は赤字スレスレでやってる気がするのだが)のが悲しいところである。

 なお、このあたりの論文はドイツ語だったり(未入手)中国語だったりして入手はおろか斜め読みすらも難しいものが結構あり、筆者の知識はかなりつぎはぎであることに留意してほしい。タニウスとチンタオサウルスの記載論文持ってる方ー!持ってる方はおりませんかー!

番外編に続く!