【大改編:2015.1.2】
辛格庄層の発掘が始まったのは1964年と、王氏層群の中ではわりあいに新しい部類に入る。事の発端は、64年の8月に、石油調査隊が山東省は諸城市で恐竜の脛骨を発見したことであった。
10月になって派遣された北京地質博物館の研究者によって脛骨はハドロサウルス類と同定され、1968年の10月までの間に30t以上の化石が採集された。少なくとも5体のハドロサウルス類がここに眠っていたのである。付近の別のサイトでは長さ1805mm(!)というとんでもないサイズの大腿骨を含むハドロサウルス類の部分骨格も採集された。
1973年になって、この竜骨澗クオリーのボーンベッドから発見されたハドロサウルス類は新属新種として記載された。シャントゥンゴサウルス・ギガンテウスShantungosaurus giganteusの誕生である。ボーンベッドから発掘された化石を寄せ集めて組み上げられた復元骨格(72年完成、使用された大腿骨は長さ1.7m弱である)の全長は実に14.8mに達していた。
この時シャントゥンゴサウルスと共にティラノサウルス類の歯と第Ⅳ中足骨が発見されており、2001年になってティラノサウルス・ズケンゲンシスTyrannosaurus zhuchengensisとして命名されている。
80年代以降、諸城恐竜博物館とIVPPは共同でシャントゥンゴサウルスの模式産地周辺の再調査を行った。結果、紅土崖層下部にあたる庫溝クオリーKugou quarryでまたしても巨大なシャントゥンゴサウルスと思しきボーンベッド(発見された大腿骨は最大で長さ1.67m)が発見され、1992年に全長16.6mに達する復元骨格が組み立てられた。後年これが波乱を引き起こすことになる。
さらに21世紀に入り、臧家荘クオリーZangjiazhuang quarry(紅土崖層中部)の発掘が行われた。この時発掘された化石はいまだ多くが研究中らしく、なかなか全貌は見えてこない。恐竜王国2012のパンフレットに曰く、「諸城で発見された恐竜化石は、複数種の獣脚類、鎧竜類や堅頭竜類、3種もの角竜類など計10数種に達しており、そのうち新種が9種を占める」とのことである。色々と悩ましい文なのだが、とりあえず諸城から発掘されて命名されたものはズケンティラヌスZhuchengtyrannus、ティラノサウルス・ズケンゲンシス、シャントゥンゴサウルス、ズケンゴサウルスZhuchengosaurus、フアシアオサウルスHuaxiaosaurus、ズケンケラトプスZhuchengceratops、シノケラトプスSinoceratopsとなっている。
リード文がえらい長く(←)なったが、ここからが本題である。各恐竜について概説していきたい。
獣脚類
↑ズケンティラヌス・マグヌスZhuchengtyrannus magnusの模式標本ZCDM V0031
諸城産獣脚類で命名されているのは、辛格庄層最上部産の“T.ズケンゲンシス”、紅土崖層中部産のズケンティラヌスのみである。現在では“T.ズケンゲンシス”は疑問名(おそらくはズケンティラヌスのシノニムだろうが…)とされている。
ズケンティラヌスはティラノサウルスおよびタルボサウルスにごく近縁な恐竜である。年代的にはこの2種よりもやや早いカンパニアン中期~後期にかけて生息していた。模式標本は頭骨の断片(しかも発掘後に事故で破損した)のみだが、一応本種とされる肋骨や脛骨、中足骨も発見されている(ボーンベッドからの産出であるがゆえに同定の妥当性には疑問の余地が大きいのだが)。
T.ズケンゲンシスは疑問名とされた(妥当な判断だろう)が、紅土崖層中部からはもう1種、未命名のティラノサウルス類(の上顎骨と歯骨)が発見されている。これはズケンティラヌス以上にタルボサウルスに似ているという。
また、基盤的なティラノサウルス類の可能性のある歯骨も見つかっている(層準不詳)。
鳥脚類
↑シャントゥンゴサウルス・ギガンテウスの骨格図(主にGMV 1780-1(模式標本)とGMV 1780-2に基づく)と、“ズケンゴサウルス”の幼体の頭部(ナンバー不詳)。
プロポーションの正確性には疑問の余地がある。
“第38尾椎”を除いては基本的にHu et al.(2001)の計測値に基づく。
スケールは1m
諸城から発見されて命名された鳥脚類はシャントゥンゴサウルス、ズケンゴサウルス・マクシムスZhuchengosaurus maximus、フアシアオサウルス・アイガウテンスHuaxiaosaurus aigahtensの3種である。恐竜王国2012では鳴り物入りで宣伝されたズケンゴサウルスとフアシアオサウルス(なぜかシャントゥンゴサウルスは全く触れられなかった)だが、シャントゥンゴサウルスのジュニアシノニムとする説が極めて強い。(参照①、②)
恐竜王国2012で「ズケンゴサウルスの仙椎」とされた写真には明らかに10個からなる癒合仙椎(ズケンゴサウルスは9個とされていた)も含まれており、色々とアレである。
突っ込みどころは満載だが、何かの冗談のように巨大な鳥脚類であることは間違いない。最大の大腿骨の長さが1.8mに達するのは上述のとおりだし、“フアシアオサウルス”の頭骨はギガノトサウルスの復元頭骨に匹敵するサイズのようだ。
角竜
現時点で諸城産で命名された角竜は2種類存在する。セントロサウルス類のシノケラトプス・ズケンゲンシスSinoceratops zhuchengensis(紅土崖層中部産)とズケンケラトプス・インエクスペクトゥスZhuchengceratops inexpectus(紅土崖層下部産)である。
シノケラトプスについては過去に色々と書いた通りである。例によって突っ込みどころ満載なのだが、目下アジアで唯一の“確実な”ケラトプス科角竜(トゥラノケラトプスをケラトプス科に含められるかどうかは極めて怪しい)としての重要性は大きい。
ズケンケラトプスはレプトケラトプス科に属する、原始的な角竜である。関節の外れた骨の寄せ集めである諸城のボーンベッドにおいて、珍しく上半身が関節した状態で発見された。断片的な頭蓋と、完全な下顎、そして関節した前位胴椎・頸椎と肋骨を模式標本(ZCDM V0015)として記載された。恐竜王国2012で模式標本の一部が来日している。
レプトケラトプス科の例にもれず、ズケンケラトプスもやたらと下顎がゴツい。同じ角竜とはいえ片や7m近い大型のセントロサウルス類、片や全長2m程度の小型種であり、うまく食べ分けるなどして共存していたようだ。(同様の例はトリケラトプスとレプトケラトプスなど、いくつか存在する)
この他、産出層準は不詳だがレプトケラトプス科の新種らしい化石も見つかっている。また、もう1ないし2種の小型角竜の化石も知られている。
堅頭竜
今のところ図示も何もないようだが、一応発見されているという。もっとも、白亜紀後期の中国で堅頭竜類が発見されることについては何の不思議もない。北米やモンゴル産の連中との関連性が気になるところである。
鎧竜
恐竜王国2012ではアンキロサウルス類の尾椎と腸骨が展示されていた。北米やモンゴル産の近縁種との関連が気になるのは堅頭竜類と同じだが、いかんせん尾椎と腸骨だけでは致し方ない。これは紅土崖層中部産だという。
恐竜王国2012の隠し玉が、「諸城竜脚類」の復元骨格であった。全長17mと、ティタノサウルス類ではまずまずの大きさ(だが、シャントゥンゴサウルスというMSじみたサイズのハドロサウルス類が共存していたことを忘れてはいけない)である。
復元骨格は全体として(見た方ならお分かりいただけるだろうが)かなり胡散臭い作りであった。どの程度、どの部位が見つかってるのかもわからない(大腿骨の実物は展示されていたが…)ので色々と歯がゆい。とりあえず世界各地から見つかるティタノサウルス類との比較が楽しみではある。
書き忘れたやつがいなければ(指摘はコメント欄にてどうぞ)、これにて辛格庄層・紅土崖層編はおしまい。次回は将軍頂層編