GET AWAY TRIKE !

恐竜その他について書き散らかす場末ブログ

君はあの影を見たか

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↑Skeletal reconstruction of huge hadrosaur
Shantungosaurus giganteus (composite; including holotype GMV 1780-1) and
Saurolophus angustirostris (composite; largely based on MPC-D 100/764).
Scale bar is 1m for GMV 1780-1 and MPC-D 100/764.

 あけましておめでとうございます。今年もGET AWAY TRIKE !をよろしくお願いします。


 ハドロサウルス類といえば名実ともに世界を支配した恐竜といっても過言ではない(ゴンドワナにしても南米そして南極まで食い込んでおり、北アフリカでそこそこまともな標本が出てくるのも時間の問題だろう)。サントニアン初頭ごろに出現すると瞬く間にローラシアはおろかゴンドワナにまで進出したわけで、ティラノサウルス類など物の数ではないレベルで繁栄したグループなのだが、その実ティラノサウルス類にかじられるのが板についている昨今である。
 
 今のご時世、日本でハドロサウルス類といえばむかわ竜ということになるのだろうが(現実問題として、下手なララミディア産のものより完全度は高いのだ)、ニッポノサウルスは置いておくとして、西南日本の各地でもハドロサウルス類の化石はちょこちょこ産出している。淡路島のランベオサウルス類は完全度はともかく保存状態はむしろむかわ竜を上回るものであるし、昨年(2018年)に報告された上甑島のハドロサウルス類の大腿骨は推定で長さ1.2m――まごうことなき10m級のハドロサウルス類のものである。その辺のティラノサウルス類をサシで殴り倒せるレベルの動物がいたのだ。

 ハドロサウルス類はローラシアならどこにでも住んでいたようなものだし、さらに言えば海成層からもちょくちょく出てくる(むかわ竜は言うまでもないが、アウグスティノロフスなど、それなりに沖合であっても全身骨格が出てくるケースは他にもあるのだ)。従って日本各地に点在する上部白亜系から出てくるのは訳ない話なのだが、一方で、ハドロサウルス類の骨格が展示されている博物館は国内では思いのほか少なく(現状の雰囲気でいくとむかわ竜の骨格もあまり量産はされなさそうだ)、まして10m超級となればなおさらである。
 こんにち国内でみられる唯一の10m超級のハドロサウルス類の全身骨格が、福井県立恐竜博物館にあるサウロロフス・アングスティロストリスMPC-D 100/706のキャストである(読者のみなさまもご存知の通り、これのオリジナルはしばしば来日している)。展示配置の問題もあってその全長を実感するのは難しい(実のところ胴椎がいくつか欠けているのを強引にマウントしているようである――これはタルボサウルスも同様である)し、また棘突起は派手に失われている(バルスボルディアは結局のところ本種のシノニムとみなせるらしく、だとするとサウロロフス亜科でも屈指の背の高さを持つ計算になる)が、そのプレッシャー(富野節)を感じるのには十分すぎるだろう。
 
 とはいえ、実のところサウロロフスの最大個体はこの骨格ではない。例えばモスクワにあるひどく潰れた頭骨PIN 551-357はMPC-D 100/706よりわずかに大きいし(変形を補正すればもう少し差が開くかもしれない)、林原が各地で展示していたブギン・ツァフ産のほぼ完全な骨格MPC-D 100/764――計測値がろくに出版されていないうえ記載も中断されている岡山理大には何とかしてほしい所存)――も、MPC-D 100/706よりやや大きそうである。つまるところ(足跡に基づく18mという全長の推定は置いておくとして――ブレヴィパロプスを忘れてはならない)、シャントゥンゴサウルスと同等のサイズなのである。

 恐ろしい話だが、実のところ10m超級のハドロサウルス類は世界的に見ても――少なくとも北米とアジアでは決して珍しいものではない。アパラチア産のいくつかの断片(時代やら古地理からすると真正のハドロサウルス類としてはかなり古いタイプだろう)が10m超級のものらしいことは古くから指摘されてきたし、シャントゥンゴサウルスやサウロロフス・アングスティロストリス、マグナパウリア(先の2つに比べるとやや見劣りするサイズだが、「背びれ」がとんでもなく大きいのでサイズ感は相当だろう)は言うまでもない。
 あげく、従来9m止まりと言われていた(12、3mに届くという話もあるにはあったが)エドモントサウルス・アネクテンスがどうやらシャントゥンゴサウルスと同等の体格になるまで成長したらしいことまで明らかになったのである(ブラキロフォサウルスも8m止まりと見せかけて13mほどにはなるらしい)。結局のところ、ホーナーの弁――既知の恐竜の“おとな”のほとんどは亜成体に過ぎない――は、割とそれらしく聞こえてくるものでもあるのだ。
 
 このあたり、上甑島の大腿骨はたぶん氷山の一角でさえないのだろう。10m級のハドロサウルス類はユーラシアの内陸だけに留まらず、海岸線近く――ひょっとすると波打ち際さえ歩き回っていたのである。
 むかわ竜の全長はざっと8mちょうどくらいのようなのだが(ハドロサウルス類はこのあたり、大腿骨1本でも割としっかり推定が利くのだ)、ハドロサウルス類としては(サイズの割には)かなりスマートな部類であるらしく、あまり高くないらしい棘突起も相まって、どことなく若い個体であるらしい印象さえ受ける。あるいはむかわ竜も、環境が許せばひょっとすると10mクラスまで育つのかもしれない。

 サウロロフス族はカンパニアン後期からマーストリヒチアンの終わりごろまで繁栄したわけだが、プロサウロロフスやアウグスティノロフスは海成層からほぼ完全な骨格が発見されていたりもして、内陸から海沿いまで広い範囲で栄えていたらしい。ユーラシア大陸の東岸でも全長10mを越す巨大なサウロロフス族がティラノサウルス類を蹴散らしていたというのは、多分にありそうな話ではある。

(開設初年度を除いてげったうぇーとらいく!の年頭記事はハドロサウルス類、それもアジア産のものが恒例であった。例によって今年もそうなったわけだが、このあたりの事情については、筆者の邪さについてよくご存じのみなさまには多分とっくにお気づきのことだろう。備えよう。)