GET AWAY TRIKE !

恐竜その他について書き散らかす場末ブログ

ドリプトサウルス今昔

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↑ドリプトサウルス・アクイルングイスDryptosaurus aquilunguisの骨格図
模式標本ANSP 9995および同一個体と思しきAMNH 2438を示す

 さて、察しのいい方ならば、HNからして筆者がドリプトサウルス好きであることに気付かれたと思う。なんだかんだ幼稚園生だかの頃にニュートン別冊(父親が勤め先からもらってきたもの)に出ていたチャールズ・ナイトの名作を見て以来ずっと好きだったりする。(トリケラトプスはさらにその前から好きだった…きっかけは今となっては誰にもわからない)
 そういうわけで、最初期に発見された恐竜の一つにして今なお謎の多い、ドリプトサウルスについてつらつらと書き連ねたい。

 初めて(科学的に認識された)恐竜が発見されたのがイギリスだったということもあり、19世紀前半における恐竜研究の中心はヨーロッパであった(そもそも、この頃の科学界の中心がヨーロッパだった)。現在でこそ恐竜研究の中心はアメリカ(中国での発見の伸びが著しいが、研究レベルとしては発展途上である)だが、アメリカで最初に恐竜化石が発見されるのは19世紀の半ばになってからである。
 こうした状況を打ち破る―――アメリカでの恐竜発見ラッシュの先鞭をつける―――ものこそ、ハドロサウルスHadrosaurusそしてラエラプスLaelapsの発見であった。(ハドロサウルスについてはいずれ書きたい)

 1866年、アメリカ・ニュージャージー州にある泥灰土の採掘所で、獣脚類として初めてとなるまとまった骨格が発見された。ニューエジプトNew Egypt層(海成層、マーストリヒチアン後期)から産出したこの化石は、獣脚類が2足歩行していたことを示す初めての化石(実のところ、その数年前に始祖鳥のロンドン標本が発見されているのだが…)であった。(1858年にハドロサウルスが発見されるまで、すべての恐竜は4足歩行するものだと考えられていた―――1854年に描かれたメガロサウルスの復元図参照。これはこれで、当時の資料と知識の乏しさからすればかなり頑張っている)

 化石の中に含まれていた大きな鉤爪は足の爪と解釈され、ギリシャ神話にちなんだ属名と合わせ、コープによってラエラプス・アクイルングイスと命名された。2年後には復元骨格(!)まで製作されている(展示されたという話は聞かないのだが…)
↑“ラエラプス”の復元骨格(手前)。奥にハドロサウルスの復元骨格が立っている。ハドロサウルスの支柱の根元にはオルニトタルススOrnithotarsusの脛骨遠位端、“ラエラプス”の足元にはヒプシベマHypsibema(だったっけ)ハドロサウルスの復元された腰帯が見える。Jersey Boys Hunt Dinosaursより

 さて、こんな復元図(“ラエラプス”よりもむしろ黒歴史エラスモサウルスの方が目立つが…主に顔が怖い)が描かれたりなんだりでコープ期待の星だった“ラエラプス”だったが、実のところダニの仲間の属名(よりによってダニである)に以前から使われており、マーシュによって(よりにもよってマーシュである)1877年に属名がドリプトサウルスに変更されてしまった。
 この前後に発見された北米のティラノサウルス類をほとんどラエラプス/ドリプトサウルス属にぶち込む(なぜかカルカロドントサウルスも一時期ドリプトサウルス属にされていた)という凄まじい状態にもなったが、20世紀の初頭にはあらかた整理され、D.アクイルングイスを除いては別属あるいは疑問名とされた。残った問題は、ドリプトサウルス(・アクイルングイス)の分類がはっきりしないことだった。

 元々はコープによってメガロサウルス科にぶち込まれたドリプトサウルス(=ラエラプス)だが、その後マーシュによって一科一属のドリプトサウルス科が設けられた。その後ギルモアによってティラノサウルス科に入れられたり、カーペンターらによってまたもドリプトサウルス科に引き戻されたり、ドロマエオサウルス科にぶち込まれかけたりと訳の分からないことになった。
 もともと海成層の産出で保存状態があまり良くなかったことに加え、いわゆる「黄鉄鉱病」によって模式標本はかなりのダメージを受けることとなった。挙句に尾椎3個や指骨らしきもの1本が行方不明になり(一応行方不明になった尾椎は上の図に加えた)、分類の混乱に拍車をかけた。

 とはいえ、エオティラヌスEotyrannusの発見で、ドリプトサウルスがティラノサウルス上科の基盤的な位置に置かれることが判明し、アパラチオサウルスAppalachiosaurusの発見でこれが確実なものとなった。また、ロンドンの自然史博物館で埃をかぶっていたドリプトサウルスのキャストも発見され、黄鉄鉱病で木端微塵になった模式標本を補完することとなった。結局、最近行われた再記載ではアルクトメタターサルをもつことも確認され、「基盤的なティラノサウロイドと派生的なティラノサウロイドの中間」にあるとされた。
 さらに、この間発表されたリスロナクスの記載論文中の分岐図では、ラプトレックス(この場合、同様の特徴をもつ真正の基盤的ティラノサウロイドと読み替えるべきだろう)とシオングアンロング+アレクトロサウルスのクレードに挟まれる形となった。これはすなわち、外見上はかなりティラノサウルス科に近付いていることを意味する。大きな鉤爪をもつことから3本指とされがちだったドリプトサウルスの手だが、どうやら(機能指は)2本指だったらしい。

 以上、ドリプトサウルスについてとりとめもなく書き散らかしてみた。白亜紀最末期のアパラチア大陸(北アメリカ東部)では目下唯一の良好な大型獣脚類の化石ということもあり、恐竜の研究史上に限らずいまだに重要な意味をもつ恐竜である。
 所せんせーの漫画のおかげでマイナー恐竜の中ではかなり知名度の高い(はず)本種だが、実を言うと筆者は所せんせーの漫画は立ち読みしかしたことがないのであった。

 ちなみに、最近になってこんなプロジェクトが進んでいる。やっぱり2本指だったよ…。ところでこのガレキ欲しいんすけど、どっかのディーラーがミネラルフェアに持ち込んで売ってくれたりしないですかね、ダメですかね?