GET AWAY TRIKE !

恐竜その他について書き散らかす場末ブログ

下甑島の恐竜相

だいぶ前に筆者は下甑島産の角竜に関して記事を書いた。その後調査がどうなったのやらと思っていたら、今度は竜脚類の歯(と体骨格らしきもの)も発見された。どうせなのでつらつらと書き散らかしたい。

 下甑島は鹿児島の南西に浮かんでいる。熊本の御所浦からこのあたりにかけて姫浦層群(海成層。白亜紀後期サントニアン~カンパニアン中期)が分布している。下部の樋の島層と上部の阿村層に分割される。樋の島層と阿村層の境界がおおよそサントニアンとカンパニアンの境界に位置するということのようである。
 今回発表された竜脚類の歯のほか、上述の角竜の歯、そして2009年に報道された獣脚類の歯のいずれも8000万年前(カンパニアン前期)のものであるという(要するに、阿村層の産出ということらしい)。また、御所浦の姫浦層群からも竜脚類の歯化石のほか、鳥脚類の足跡化石が発見されている(年代が7500万年前となっているが…あまり気にしない方が良いかもしれない)。

 さて、8000万年前のアジアに目を向けてみよう。モンゴルの地層の形成年代が正直訳の分からないことになっていたりでアレであるが、だいたいバイン・シレBayan Sireh層やイレン・ダバスIren Dabasu層がセノマニアン~サントニアン、ジャドフタDjadochta層やバルン・ゴヨットBarun Goyot層がサントニアン~カンパニアン頃とされている。(最近ジャドフタをカンパニアンの終わり頃―――7200万年前―――とする話が有力なようである)

 いずれにしても、この時期というのは、ティラノサウルス科一歩手前のティラノサウロイド(色々とおかしい表現だが、非ティラノサウリド―ティラノサウロイドとか書くよりはマシだろうか)―――たとえばアレクトロサウルスAlectrosaurus―――やドロマエオサウルス科、トロオドン科の連中がアジアでのさばっていた時期である。すでに北米では真正ティラノサウルス科の中でも派生的なリスロナクスLythronaxが出現しているのだが、この時点でアジアに“出戻って”きていたかは不明である。
 
 植物食の連中に目を向ければ、オルニトミムス科やカエナグナトゥス上科、テリジノサウルス科といった獣脚類、原始的なハドロサウルス科、アンキロサウルス科、角竜、堅頭竜、ティタノサウルス類といった、白亜紀最後のオールスターが揃いつつある状況である。

 さて、下甑島に話を戻すと、最初に見つかった獣脚類は系統不明とされている。角竜は以前の記事で書いた通り、ケラトプス科ないしそれにごく近い、かなり進化の進んだ代物である。そして、今回発見された竜脚類の歯は、ネメグトサウルス類という話がちらほら聞こえてくる(いかんせん筆者は歯の形態については素人なので、なんとも言えないのだが)。
 ネメグトサウルス科といえば、派生的なティタノサウルス類のくせに白亜紀前期にはすでにゴンドワナローラシアに出現していたという凄まじい連中である。モンゴルの上部白亜系から2種(ネメグトサウルスNemegtosaurusとクアエシトサウルスQuaesitosaurus)が発見されており、同時期の日本にいても何ら不思議はない。

 仮に下甑島の竜脚類がネメグトサウルス類だったとして、この時代の日本から化石が見つかることは予想のうちである。ただ、派生的な角竜と同じ場所から見つかるというのはユニークである。
 モンゴルのネメグトサウルス類の場合、共産するのは原始的な角竜(バガケラトプスBagaceratops)くらいである。ティタノサウルス類全体で見ても、ケラトプス科ないしそれに準ずる角竜と共産するのは2例(アラモサウルスと諸城のティタノサウルス類―――諸城産のものはひょっとするとネメグトサウルス類かもしれないが)しかない。

 現状では歯くらいしか見つかっていないので突っ込んだ話はしにくい。が、現時点で明らかになっていることを総合すると、姫浦層群は世界でも珍しい、ネメグトサウルス類とケラトプス科角竜が共産する地層と言えるようである。