エドモントサウルス属には、「トサカの芯」になるような目立った構造は存在しない。要するに、鶏のトサカみたいなものである。雌雄でトサカの形態が違う(あるいは片方には存在しない)といったことが想像できる。
エドモントサウルスといえば、恐らくマーストリヒチアン後期のE.アネクテンスannectensの方が有名だろう。今回肉質のトサカが見つかったのは、カンパニアン後期~マーストリヒチアン前期の種、E.レガリスである。
この標本が見つかったのはカナダのアルバータ州、(言及がないがほぼ間違いなく)ホースシュー・キャニオンHorseshoe Canyon層であるワピチWapiti層である。E.レガリスが記載されて100年近くが過ぎ、完全な骨格もとうに発見されてはいたのだが、ミイラ化石は初めての発見となる。
E.アネクテンスのミイラ化石はヘル・クリーク層やランスLance層で古くから知られていたが、トサカの痕跡が確認されたことは(今も)ない。
E.アネクテンスのミイラ化石では、完全な頭骨が残っている例が2つある。「ゼンケンベルグ標本」ことSM R4050(福井や豊橋でキャストが見られる)と、「トラコドンのミイラ」ことAMNH 5060である。しかし、どちらの頭骨も、(現在)残されている軟組織はわずかである。
こんな話がある。
「トラコドンのミイラ(AMNH 5060)の頭骨を(表面の岩を取り除いて)露出させるまで、体部に残された軟組織に誰も気付かなかった」
要は、ミイラ化石だと気づいた時には頭骨の大雑把なクリーニングが済んでいたということである。
現在AMNH 5060の頭骨に見られる軟組織の痕跡は、鼻孔周辺、そしてケラチン質のくちばしのみである。だが、発見時点では、大部分の皮膚痕―――ひょっとしたらトサカの痕も―――が残っていた可能性がある。どうやら、クリーニングの過程でかなりの情報が失われてしまったらしい。
今回の発見で、骨質のトサカを持たない恐竜であっても、何らかの肉質のトサカを持つものがいたことが確認された。
E.アネクテンスに肉質のトサカがあったかはわからない。しかし、E.レガリスの例を考えると、E.アネクテンスにトサカがあった可能性はかなり高いと言える。