GET AWAY TRIKE !

恐竜その他について書き散らかす場末ブログ

カスモサウルスの幼体

livescienceより、カスモサウルスの一種Chasmosaurus sp.の幼体
 
 さて、先日のSVP2013ではデイノケイルスの新標本が話題をさらったが、角竜についても新情報が出ていたようである。

 2010年、既知のケラトプス科角竜の中で“最小の”関節した骨格が、カナダ・アルバータ州ダイナソー・パークDinosaur Park層最下部から発見された。(カスモサウルス・ベリC. belliとする報道が多いが、C. belliダイナソー・パークの最下部からは出ていないはずである。最下部から出ているのはカスモサウルス・ラッセC. russelliのはずだ。元の発表のアブストでもChasmosaurus sp.となっている)←後述

 前肢こそ欠けているが、あとは非常に良好な状態である。(尾椎は32個が関節していたというので、先端の5つほどは欠けているのかもしれない)
 全長は1.5m、体サイズから推定して(よって妥当性には少々疑問も残るが)、年齢は3歳程度だという。

 特筆すべき点として、後肢のプロポーションが挙げられる。ティラノサウルス類などの獣脚類では、成長の過程で後肢(だけでなく全身の)のプロポーションが大きく変化することが知られている。しかし、この標本を見る限り、ケラトプス科角竜では極端なプロポーションの変化は起きていないようである。(これは“ブラキケラトプス” "Brachyceratops"でも言える
 また、脇腹には皮膚痕も残っていたが、羽毛の痕跡らしきものは確認されなかった。(角竜に一般的なロゼット状のウロコが確認された)
 頭骨には形成初期の鼻角(縁鼻骨の要素はないように見える)が(申し訳程度に)存在する。また、「フリルの窓」も(写真ではわからないが)みられる。
*追記*分離された頭骨の写真を見る限り、眼瞼骨と思しき突起が確認できる(上の写真でも写ってはいる)。また、上眼窩角が後眼窩骨とは独立しているようにも見えるのだが…(これは単に亀裂が入っているだけだとは思うのが)。

 というわけで、大雑把ではあるがカスモサウルスの幼体について書き記してみた。
“ブラキケラトプス”の実物がマウントされてしまっている以上、ケラトプス科の幼体で詳細に研究できる良好な骨格(頭骨要素だけなら大量にあるが…)は本標本とアヴァケラトプスの模式標本のみである。
 今後2、3年くらいのうちに、論文の形にしてくれればと思う。(できればActa Palaeontologia PolonicaかPLOS ONEあたりで…)

■追記■
 カスモサウルスの種類については、同じくSVP2013のアブストに気になることが書いてあった。
 いわく、
●カスモサウルス・ラッセリのホロタイプ(CMN 2280)の産地は、実はダイナソー・パーク層最上部(ヴァガケラトプスVagaceratopsと同じ)だった→C.ベリと層序学的に区別できなくなる
●“エオケラトプスEoceratops” 、“モジョケラトプスMojoceratops”は亜成体に基づく
C.ベリとC.ラッセリ(そして“モジョケラトプス”)のフリルの形態の差は雌雄差と解釈して問題ない
●従来C.ベリとされてきたAMNH 5402とYPM 2016は(縁頭頂骨の数が多いので)新種かも

 というわけで、どうやらC.ラッセリと“エオケラトプス” 、“モジョケラトプス”はC.ベリのシノニムとなりそうである。となれば、ダイナソー・パーク層の最下部から見つかってもC.ベリの可能性が高いわけで、報道の「C.ベリ」表記にはこういう事情があるようだ。
 でもどうして今まで露骨にC.ベリな標本が最下部から出なかったんだろう…?

▼追記▼
flickrに本標本の写真が大量に出ており、非常に参考になる。明瞭な眼瞼骨が確認できるほか、強膜輪も保存されていることがわかる。縁鼻骨や縁頬骨、縁後頭骨はまだ形成されておらず、このあたりもトリケラトプスの幼体と似ている(一方で、はっきりした頭頂骨窓をもっているのは特筆すべき点であろう)。尾はやはり尻切れトンボになっていた。
◆追記その2◆
 JVPに本標本の記載論文が掲載された。本標本は恐竜博2016での来日が決定しており、非常に楽しみである。なお、結局C.ラッセリは有効種のままである(ベリと共存していたということになった)。