GET AWAY TRIKE !

恐竜その他について書き散らかす場末ブログ

鳥コウモリ

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Skeletal reconstruction of Epidexipteryx hui holotype IVPP V15471.
Scale bar is 10cm.

 遼寧省といえばもはや古生物ファン相手には説明不要となっているが、そういうわけで内モンゴルと合わせ、(ある種特別な堆積環境に恵まれたおかげで)中部ジュラ系~下部白亜系が羽毛恐竜の一大産地となっている。古くから知られている通り、羽毛恐竜のほかにも様々な植物や無脊椎動物脊椎動物化石を産出している地域であり、この時期の生態系を非常によく保存しているわけである。1990年代末~2000年代前半にかけては義県Yixian層といった白亜紀前期の地層が注目されてきたが、ここ10年ほどはジュラ紀中期~後期―――鳥類の起源に迫る―――の地層も脚光を浴びている。

 スカンソリオプテリクス、エピデンドロサウルス―――結局タッチの差でスカンソリオプテリクスのジュニアシノニムになった―――が内蒙古自治区の道虎溝Daohugou層(ジュラ紀中期~後期;層序も年代もはっきりしていない部分があるのだが、とりあえず白亜紀より前なのは間違いない。スカンソリオプテリクスの産地および産出層は実のところはっきりしていなかったりもする)から報告されたのは2002年のことで、これによって初めてスカンソリオプテリクス類―――長い前肢と妙に長い第Ⅲ指をもつ超小型獣脚類(基盤的鳥類とみなす向きも一部で根強いが)の一群の存在が認識されることとなった。全体としては「鳥類的」なつくりではあったのだが、一方で手のつくりはこれまでの恐竜では知られていないもので、その機能に注目が集まった(何しろ鳥類の飛行の起源にも絡みかねない話題である)。
 もっとも、スカンソリオプテリクスのホロタイプCAGS02-IG-gausa-1/DM 607も”エピデンドロサウルス”のホロタイプIVPP V12653も全身の様々な部位を保存していたのだが、頭骨の前半部はわからずじまい(“エピデンドロサウルス”の下顎前半の左右幅はかなり広かったのだが)であった。

 エピデクシプテリクス―――内蒙古自治区のこれまた道虎溝層から産出した第3のスカンソリオプテリクス類―――が命名されたのは2008年になってからだったが、実のところこの恐竜はスカンソリオプテリクス(とエピデンドロサウルス)が命名される2年前にはすでに学会で報告されていた。エピデクシプテリクスの模式(にしてもっか唯一の)標本IVPP V15471は足を欠く(手の保存もいまいちである)以外はほぼ完全かつ関節のつながった骨格であり、スカンソリオプテリクスや“エピデンドロサウルス”では保存のパッとしなかった原羽毛もよく残されていた。
 エピデクシプテリクスの頭骨(一見インキシヴォサウルスによく似ている)は全体が保存されており、下顎の先端にはやたら大きな歯が確認された。また、スカンソリオプテリクスとは異なり尾はかなり短く、そしてその先端からは4枚の長い「リボン状の」羽毛が伸びていたのである。

 エピデクシプテリクスは全身の羽毛が非常によく保存されていたのだが、妙なことに(長く発達した前肢をもつ割には)羽軸をもつ(原)羽毛からなる「翼」は確認されなかった。ツェルカスとフェドゥーシア(!)はスカンソリオプテリクスの模式標本の四肢に翼の印象が保存されていると主張したりもしたのだが、少なくとも「翼の印象」は肉眼で確認できる代物ではなく、これといって相手にされることはなかった。なんにせよ(少なくともスカンソリオプテリクスは半月状手根骨さえもっているにも関わらず)、明確な「翼」はスカンソリオプテリクス類の標本には確認できなかったのである。
 一昨年になって第4のスカンソリオプテリクス類であるイーが命名され、尖筆状突起の存在で話題をさらったのは今さら書くこともないだろう。イーは羽軸をもつ羽毛からなる「翼」をもたず、その代わり尖筆状突起に支えられた皮膜からなる「翼」をもっていたことが明らかになったのである。
 イーの模式標本STM 31-2は上半身しか保存されていなかった(従って尾の長さは現状想像するほかない)ものの、残されていた骨格の基本形はこれといってエピデクシプテリクスと差はないようである(頭骨についても、歯の形態やサイズを除けば大した違いはないようだ。食性の違いなどを想像すると楽しい)。イーの長い第Ⅲ指は尖筆状突起と合わせて皮膜を支えていたと考えられるが、これはすなわち近縁であるエピデクシプテリクス(やスカンソリオプテリクス)の長い第Ⅲ指も同様の機能を担っていた可能性を示している。エピデクシプテリクスやスカンソリオプテリクスで尖筆状突起が知られていないのは、保存状態(エピデクシプテリクスの手はバラけていた)や成長段階(スカンソリオプテリクスはエピデクシプテリクス(亜成体らしい)の半分以下のサイズの幼体しか知られていないである)によるものと考えることができそうだ。

 スカンソリオプテリクス類の系統的な位置づけは言うまでもなく混乱しているのだが、最近ではデイノニコサウルス類の「手前」に置く意見が定着しつつある。スカンソリオプテリクス類の起源や進化については不明な点が多すぎるのだが、現生鳥類にかなり近い系統にも、翼竜あるいはコウモリに(が)収斂したらしい一グループが存在したわけである。「鳥コウモリ」の系譜をどこまで辿れるかは、今後の発見にかかっている。