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恐竜その他について書き散らかす場末ブログ

南の国から

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アメリカ南西部から産出した“ティラノサウルス・レックス” 解説は本文参照

 先日のダスプレトサウルスの記事でちょっと触れたのだが、ここ数年ティラノサウルス科の細分が進んでいる。かつて古くからの属にひとくくりにされていた標本の再分類が進んだりなんだりで、ここ数年の種の増加はめざましい。

 さて、ご存知の方も多いだろうが、アメリカ南西部(ユタ、テキサス、ニューメキシコ)のマーストリヒチアンの地層から複数のティラノサウルス類の標本が知られている。これらの標本は一般にティラノサウルス・レックスとして同定されてきた。
 だが、実際のところこれらの標本の産出年代についてははっきりしない部分が大きい。
 ティラノサウルス・レックスはいわゆるランス期(マーストリヒチアン後期)に生息していたが、南西部産の“ティラノサウルス”の化石はこれより古いものが多いようだ。また、ララミディアの南北で異なる恐竜相が存在したことは度々指摘されている。
 T. rexとしてひとくくりに分類するには少々問題アリ(だと筆者が勝手に思っている)な連中について、適当に解説していきたい。

ノース・ホーン層の“ティラノサウルス・レックス” 
UMNH 11000
 ユタ州に分布するノース・ホーン層は山間の盆地だったとされている。アラモサウルス“トロサウルス”・ユタエンシスの産出で知られている地層でもある。
 UMNH 11000は図示した部分的な頭骨のほか、部分的な体骨格も発見されている。発見された頭骨は形態的にはティラノサウルス・レックスと極めて近い。
 とはいえ、頭骨は部分的である。ノース・ホーン層の絶対年代は判明しておらず、化石層序の研究から、ノース・ホーン層の下部(“トロサウルス”・ユタエンシスは下部からの産出である)はランス期以前に堆積した可能性が高いとされている。

“エレファント・ビュートのティラノサウルス・レックス”
NMMNH P-1013-1(NMMNH P-3698)
 ニューメキシコ州のマクラエMcRae層、ホール・レイクHall Lake部層からは、NMMNH P-1013-1(NMMNH P-3698とも)が発見されている。図示した歯骨以外に後眼窩骨や鱗状骨、血道弓なども発見されている。
 マクラエ層は山間の盆地だったとされており、アラモサウルスやトロサウルスの一種(ユタエンシスというよりはラトゥスに近いようにも見える)が発見されている。絶対年代についてははっきりしていない(マーストリヒチアンだったのは確実だろうが)。
 歯骨には歯骨歯が13本存在し、これはティラノサウルス・レックスと共通する特徴である。が、同様に歯骨歯の減少しているティラノサウルス類は他にも知られており、これだけでティラノサウルス・レックスとするには少々厳しい気がする。

ハヴェリナ層の“ティラノサウルス・レックス”あるいは“T.ヴァヌス”
TMM 41436-1
 テキサス州のハヴェリナJavelina層(よく考えたらジャヴェリナじゃなくてハヴェリナであった)からは、本標本を含めていくつかのティラノサウルス類の化石が発見されている。うちいくつかは最近になって、ティラノサウルス属、恐らくはT.レックスであろうとされた。
 ハヴェリナ層の中部では絶対年代が6900万年前と確認されている。山間の盆地だったとされ、複数種の角竜やアラモサウルスが発見されている。
 ハヴェリナ層のティラノサウルス類(のうち、T.レックスの可能性アリとされたもの)は最も古いもので6800万年前ごろとされている。TMM 41436-1はハヴェリナ層上部(おそらく6700万年前ごろ)からの産出であり、いずれも(確実な)ティラノサウルス・レックスよりも古いようだ。
 TMM 41436-1はもともと非公式にティラノサウルス・“ヴァヌスvannus”と命名されたことがある。一般にはT.レックスの亜成体とされることが多いが、実際のところ積極的に支持する証拠があるわけではないようだ。



 そんなこんなで、今回紹介した一連の標本はティラノサウルス・レックスとして分類されているが、現状これに関して積極的に否定も肯定も難しいように思う(なんとなくT.レックスではないような気がするが、大した根拠はない)。T.レックスに(発見されている部位は)よく似ているようだが、化石は断片的であり、あまり踏み込むべきではないように思われる。
 いずれの標本も山間の盆地だったところから発見されており、ティラノサウルス・レックスの生息地であった海岸平野や沖積平野ではない点には留意しておくべきだろう。(単にティラノサウルス・レックスの生息地が幅広かったことを意味している可能性もある)

 オホ・アラモOjo Alamo層(またしても山間の盆地である。年代はマーストリヒチアン前期―――ハヴェリナ層やノースホーン層下部と同じ)から発見されているティラノサウルス類は“アラモティラヌス・ブリンクマニAlamotyrannus brinkmani”として記載されるらしい(in Press)。比較可能なレベルかはわからないが、今回紹介した“ティラノサウルス・レックス”との関係性が気になるところである。あるいは、同じ属に分類できるのかもしれない。