暑かったり寒かったり雨が降ったり降らなかったりする季節である。コラ画像めいた表紙は第三者によるコラージュではなく、グレゴリー・S・ポールの新刊――翼竜のフィールドガイドであった。
さんざん本ブログでは取り上げてきた(いずれ出るであろう第3版のときも何か書くことになるだろう)が、振り返ればThe Princeton Field Guide to Dinosaursの初版は10年以上前の本であった。2016年に第2版、2020年には第2版の邦訳と、順調に売れていたらしいことになる。
ポールの骨格図といえば今も昔も恐竜で有名ではあるのだが、恐竜骨格図集などにもあるように、時折恐竜ではない古生物(まれに比較用の現生動物)の骨格図を描くことがあった。プテラノドンやランフォリンクス、プテロダクティルス程度しか見かけたことがないのだが、そういうわけで翼竜の骨格図もいくらかはこれまでに描かれていたわけである。
ポールの新刊――The Princeton Field Guide to Pterosaursは、128ページとのことで、ボリューム自体は恐竜フィールドガイドの1/3程度といったところのようだ。とはいえ相当な量の骨格図が掲載されるらしい(翼竜であるということで、2面図が基本になるのかもしれないが)ことは明らかで、やはり比類なき本にはなるだろう。
翼竜の骨格図を描くのは端的に言って難しい。これまで筆者もわずかばかりの翼竜を描いてきたが、ひどく潰れて変形し、左右の翼で(明らかに変形によって)骨の長さが派手に変わることさえ常であった。そうした中にあって、翼竜の骨格図をコンスタントに描いてきたプロのイラストレーターと言えばマーク・ウィットンとデイビッド・ピーターズが双璧をなすという、暗澹たるありさまだったのである。
(何度か書いてきたことではあるのだが、ピーターズによる骨格図の「技法」そのものはきわめてプリミティブかつ真っ当で真摯なものである。今日でさえ、潰れた骨の「補正」はほとんどの場合科学的とは言えないやり方に頼らざるを得ず、潰れた要素をそのままトレースして描き出すやり方の方が(アウトラインが決して生存時のそれを表わさないという点に留意する限り)よほど科学的であるといえよう。何を見て何を拾い出すかという問題である。)
全盛期のポールによる翼竜の骨格図は(おそらくは)わずかしか存在せず、従って、The Princeton Field Guide to Pterosaursで描き出される翼竜の骨格図たちがいかなるものかは表紙を開けてみるまでわからなさそうだ。ロックの黄金時代を知っていたからこそ死についても嘆きようがあった恐竜フィールドガイドであったが、ポールの描く翼竜の骨格図については(世界中のおそらく誰もが)ほぼ未知数の状態であろう。
恐ろしいことに刊行日は2022年6月7日と明言されており(書影もばっちりである)、本はあらかたできあがってしまっているのだろう。ケツァルコアトルスのモノグラフの出版が秒読みらしい(本来なら2018年ごろには出版される予定だったらしい)が、このあたりも含めてさてどうなるだろうか。奇妙でおもしろく、そして(たぶん)せつない本になってくるのは恐らく確かである。