GET AWAY TRIKE !

恐竜その他について書き散らかす場末ブログ

そして伝説へ…

 真夏もいいとこである。筆者のマシンは例によってMW5(そろそろ中心領域周回も飽きてきたので追加のダウンロードコンテンツはよ)を回すと熱停止寸前までヒートシンクフリーザーとか二重ではない)のファンが咆哮するわけだが、幸い冷房を付けていればなんとかといった具合である。(チャンピオンとマローダーⅡが気になるお年頃の筆者である。ナイトスターが扱いやすすぎてそうそう手放せそうにないところではあるのだが。)

 

 さて、前記事でも触れたとおりこのご時世で恐竜関係のイベントは壊滅状態(ちょこちょこやっていたりはするのでよく計画されたし)なわけだが、出版業界に目をやるといろいろ賑やかである。うっすら謎の自伝(自伝とは限らないが)ブームが到来しているのはさておき、よりにもよってグレゴリー・ポールの洋書――The Princeton Field Guide to Dinosaurs (2nd Ed.)の邦訳が出版されるのである。

 言うまでもなく筆者の本棚(と段ボール箱)には原著の初版と第2版(なんなら初版のUK版もある)が入っており、かつて本ブログでも色々と書いたおぼえがある。なんだかんだでポール大好きマンとしては謎の感慨深い気にもなるのだが、そうはいってもポールの本である。

 ポールの和書にリアルタイムで触れた経験があるのは、せいぜいが筆者の世代(90年代前半生まれ)までであろう。これは単に、ポールの「新作」やエッセイの載った和書が最後に出たのが2000年代初頭だった(はず)ということである。とはいえ筆者は恐竜博2002の物販で平積みされたディノプレス(最新号=最終号だった)をパラ見したのちタミヤトリケラトプス情景セットを買ってもらったタイプの人類だったわけで、ポールとの最初の出会いは学研の図鑑だったはずである。なんにせよ、筆者はポールが業界にお目見えした時(80年代中ごろ)の衝撃とは無縁であり、一種のスタンダードとなってから出会った格好となる。

 裏を返せば、それ以降の世代はリアルタイムでポールの和書に触れることがなかった計算になる。筆者はといえば中学校の図書室の隅っこで恐竜骨格図集を発掘し、肉食恐竜事典を今さら買ってみたりとろくでもない行為に手を染めていたが、そうあることでもないだろう。そういうわけで生じた(日本における)ポールの空白期間の間に、スコット・ハートマンをはじめとするポール式(ハートマンのそれはもはやポール式からはもはやかけ離れているように見えるのだが)の追随者、あるいはむしろ古典的なスタイルの骨格図が幅を利かすようになって現在まで至っている。もっとも、90年代に席巻した「骨格図文化」は2000年代初頭で――ポール式骨格図の網羅的な本が出版されなくなった時点で絶えてしまったとさえ言ってしまっていいかもしれない。 

 肝心のポールの本と言えば、2010年に大著――The Princeton Field Guide to Dinosaurs(初版)が出版され、往年のポールと劣化したポールのごった煮(アクも取らずに丸1日火にかけていたような代物)が読者に提供されたわけである。往年のポールは往年の作に過ぎず、一方で劣化ポールには往年の見る影もなかったのは書くまでもない(そもそもポールの単著なのでポールにしか書けない文章の連発でもある)が、なにしろそのボリュームはすさまじかった。「フィールドガイド」という体裁ゆえの問題もいくらでもあったが、結果的にポールによるポール式骨格図の集大成には違いなく、各分類群についてこれほど網羅的な一般書も他にほとんど存在しなかったのである。

 

 2016年になって出版された第2版も同じことで、ひたすらに初版の拡大版であった。ただでさえ大きかったボリュームはさらに膨らみ(ポール節に磨きがかかったかと言えばそんなことはなく、とりあえず増量されただけであった)、80年代から慣れ親しんでいた骨格図のいくつかは別標本ベースの骨格図に差し替えられた(筆者が何を言いたいかはまあわかってもらえるだろう)。それから4年が過ぎようとする現在にあって、第2版は依然として同じ地位――「図付きで恐竜の種類がいちばん多く載っている本」に君臨している。

 ここまでが前置きである。色々なところで散々書いてきた話だが、ポールの本は非常にアクの強い本であり、端的に言って読みこなすのは難しい。筆者とてThe Princeton Field Guide to Dinosaursの前半部分はいまだかつてパラ見以上のことはしていなかったりする。そんな本の訳を引き受けたのはよりにもよって福井県立恐竜博物館であり、従って「グレゴリー・ポール恐竜事典」は「在野の研究家」の単著(監修もないポール成分100%の原著である)を日本でも有数の(それも若手中心の)古生物学者がよってたかって翻訳した格好になる。しかもそれがほぼ20年ぶりのポールの本(単行本で数えれば、恐竜骨格図集以来24年ぶりとなる)となれば、もはや文字情報だけでおなかいっぱいである。今こそ(ポール式)「骨格図文化」再興の時である。

 語句索引まで追加された結果壮絶なボリュームになったことは間違いない本書であるが、100%純粋ポールに訳者らは相当苦しんだことと思われる。ポール本の訳者に本職の研究者があたることは、たぶん今後ないだろう。そういう意味でも(ある種プロレスめいた面白さというべきか)本書はめったにない本である。

嘆くべきは本書の抱えるもろもろの問題点ではなく、アメリカでは本書がたった35ドルで売られていることであり、もはや邦訳がビジネスとして成立しなくなった日本の恐竜「市場」である。最後にもう一度だけ書くと、本書は「買い」である。

 かつて第2版が出版された際に筆者はこんなことを書いたわけだが、4年も経てば邦訳が出てしまうものである。なんだかんだ言っても原著は恐竜の形態・復元について統一されたフォーマット――ポール式骨格図でもっとも広く俯瞰できる本である(そして「復元の危うさ」についてもっとも広く俯瞰できる本でもある。このあたりも4年前に書いた内容まんまである)。ましてそれが日本語(のきちんとした訳)で読めるようになったわけである。使いこなせればこれ以上ない本であり、本書を使いこなせるようになる頃には一皮も二皮もむけているはずである。備えよう。