御船町恐竜博物館がMOR(モンタナ州立大学ロッキー博物館)と姉妹館提携を結んでいるのは読者の皆様にはご存知の通りで、MORの標本のクリーニングを請け負うなどの共同事業を行ってきたわけである。そんなわけでリニューアル後の御船町恐竜博物館の常設展にはMORの標本のキャストが数多く含まれており(MOR 3027などは現状MORと御船にしか展示されていないようだ)、また今回のようなMORプロデュースの特別展も開催されている。
今回の特別展「新発見 恐竜時代の支配者 進化するモンタナの恐竜たち」はそのタイトルの通り、モンタナ産の様々な時代の恐竜を取り上げつつ、特に白亜紀後期のものについては「進化」の側面を取り上げている。MOR(というかホーナー)が生層序と進化に注目して90年代から研究を行っていたのはよく知られている通りで、特にここ数年で様々な研究成果が得られている。MORプロデュースということで、そのあたりの(ひとまずの)総決算という側面の大きい特別展であるのは「新説・恐竜の成長」と同様である。
とかなんとか上で書いたのだが、最近MORはモンタナ州のモリソン層(今まであまり注目されてこなかった)でも熱心にフィールド調査を行っており、かなりの成果を挙げつつある。上の写真はオヘア・クオリーで産出したディプロドクスMOR 7029とアパトサウルスMOR 700の産状(再現)の一部である。
MOR 7029のジャケットの一部。素晴らしい保存状態である。
初っ端から実物の展示が続く。オヘアで発見されたアロサウルスMOR 738も非常に保存がよい。原始的なつくりの中足骨がよくわかる。
モンタナ産ではないのだが、MORといえば忘れてはいけないのがビッグアルである。ジムマドセニっぽいといえばそんな気もしてくるのだが、このあたりは微妙なところであろう。
デイノニクスといえば日本国内で見かけるのは基本的に全てYPMボーンベッド由来のものである。今回展示されているMOR 747(シックルクローの実物も展示)は3体分のボーンベッドの標本(の寄せ集め)だというのだが、足は同一個体由来のようにみえる。シックルクローはカーブの弱いタイプである。
テノントサウルス(MOR 787)の化石も国内ではまず見る機会はないだろう。第Ⅳ中足骨や第Ⅲ-1趾骨にみられる変形が痛々しい。
マイアサウラも亜成体やらの長骨が多数来日。黒っぽくなっている部分はお察しの通り切断された跡である。
オロドロメウス(MOR 238と623)を拝むのもめったにない機会だろう。筆者が思い切り映り込んでいるのは気にしないでほしい。
このあたりは(予想されたことではあるが)福井の特別展と被っているといえばそうである。どっちも行っておくといい感じで相互補完できてよいだろう(御船に行った翌日に福井へ出向くという無茶なことをした筆者)。
サウロルニトレステスといえば上野で展示された尾以外完全な標本UALVP 55700は記憶に新しいが、その登場以前はティレルとMORのマウントがサウロルニトレステスの「顔」であった。ティレルの復元骨格はRTMP 88.121.39(部分的な頭骨、尾の後半、部分的な前肢、ほぼ完全な後肢)とMOR 660(椎骨の大半、完全な前肢、後肢の大部分)のコンポジットなのだが、MORのマウントはMOR 660のみに基づいているようである(ティレルのコンポジットとは頭部や尾のアーティファクトが別物)。どちらのマウントも、頭骨を除けば特に問題はなさそうだ。
MORプロデュースということで、アクリスタヴス(ホロタイプMOR 1155のキャスト)のような渋すぎる面子も展示。まさしくブラキロフォサウルスやマイアサウラの「プロトタイプ」の顔である。
プロブラキロフォサウルスといえば化石の状態がいまいち…にしては妙にきれいな頭骨だと思えば、ブラキロフォサウルスMOR 794(展示パネルでは749となっているがこれは誤植)をベースにした「模型」であった。実際こんなもんだろう。
本家ブラキロフォサウルスMOR 794では「盾トサカ」が頭骨のほぼ後端まで達する。余談だが本標本は首から後ろの保存状態もすさまじい。
世界初公開となるケラシノプスのホロタイプMOR 300のマウントはやたらデカい。なぜか頚肋骨はマウントされていないのだが、一方で鎖骨(基盤的な角竜ではよく保存される)はきっちり組まれている。
アケロウサウルスとエイニオサウルスの頭骨はどちらもホロタイプに基づいている。キャストとはいえ元の化石の質感が素晴らしい(一方で両者ともアーティファクト部分のディテールが巧妙に作られており注意が必要である)が、どちらも派手に変形しており、色々と厄介ではある。右下に写っているルベオサウルスの頭骨MOR 492(新属新種である可能性をほのめかされつつエイニオサウルスの原記載の中で暫定的にエイニオサウルスとみなされ、結局“スティラコサウルス”・オヴァトゥスの新標本としてルベオサウルス属の立ち上げに至ったと思ったらオヴァトゥスから外す意見まで出ているあたり運のない標本である)のキャストは日本初公開…なのだがケースの映り込みがむごいのであった。
先日命名されたダスプレトサウルス・ホーナーリのホロタイプ(のキャスト)も来日。間近で見られるのが嬉しい。
モンタノケラトプスの亜成体MOR 542。ホロタイプでは残っていなかった肩帯や手がよく保存されている。
エドモントサウルス・アネクテンスUCMP 128372(128374とどちらが正しい標本番号なのか謎;奥)とMOR 003(手前)。どちらもE.アネクテンスの保存良好な頭骨としては特に大きい部類に入る。とかなんとか言いつつ脇にMOR 1609(MOR 003の1.5倍くらいある)が展示してあるあたり本当に恐ろしい。
横浜以来となるMOR 1120である。モンタナ産の正真正銘のホリドゥスのまともな頭骨というのは案外珍しい。こうしてみるとどことなくホロタイプの面影があるようだ。
MOR 2978も横浜以来…で、また実物である。左右方向に派手に潰れてはいるのだが、それでも長い鼻角(およびそこにつながるがっしりした前上顎骨上部)、短めの上眼窩角、よくカーブしたフリルなど、トリケラトプス・プロルススの特徴はよく見て取れる。
MOR 004(妙にテカっているのは気のせいではない。上によじ登って撮影可能とのことだったがさすがにいい歳こいた(年相応に体もデカいし)大人になってしまったのでやめた)はMOR 2978とは対照的に、上下に派手に潰れている(ついでに上眼窩角も根本以外残っていない)。一方で左右方向の変形は小さく、MOR 2978と合わせてプロルススのイメージをつかむのによいだろう。
横浜とは違って“B-rex”ことMOR 1125はアクリルなしで撮り放題である(これで骨格図を描く見込みも立ったというものだ)。鼻骨と前上顎骨を除けばほぼ完全な頭骨であり、歪みもわずかである。現状メスと断定できる標本はこれだけである。
“Chomper”ことMOR 6625は既知の(博物館に所蔵されている)ティラノサウルスの中では最小の個体である。実際に出ているのはほぼ歯骨だけであり、他は林原のタルボサウルス幼体がベース(歯の本数はジェーン準拠)である。
"Pecks' rex"ことMOR 980(最近実物がマウントされて話題になった)の頭骨(の左側面)は決して完全度が高いとは言えないのだが、それでも存在感はなかなかである。
というわけで、こじんまりしてはいるものの質の良い標本が揃い、相当な展示の密度であった。一方で詰め込みすぎかといえばそういうわけでもなく、そのあたりのバランスもなかなかだったように思う(ちょいちょい光源がしんどかったのだが)。
アクセスが少々しんどいのは言わずもがなだが、幸い会期は11月26日(日)まであるの。ぜひ行かれることをおすすめしておく。
(突然の話にも関わらずお付き合いいただいた某N氏に感謝を。研究頑張ってね☆)