いいかげん齢を取ったせいかタッチ展示に特段魅力を感じなくなって久しい筆者だったのだが、卵化石は新鮮である(表面の装飾もあるのでけっこう楽しい)。
こんな感じで下顎もばっちり残っている。尾の一部と座骨はいいとして、長骨(中空なのがよくわかる)がいまいち謎。
バラけてはいるのだがそれなりに関節はつながったままであり、中位胴椎から腰にかけては大腿骨まで関節した状態である。写真中央の座骨とは別に、左下にもっと小さな座骨らしいものが見えるのだが…?
筆者にしてはうまく撮れたダーウィノプテルス(オス)。「不定形」の骨質のトサカがよくわかる。
同じく、筆者にしてはうまく撮れたダーウィノプテルス(メス)。矢印で卵が示してあることは言うまでもない。
言うまでもなく今回の特別展の主役は見事な卵(というか巣)の化石たちである。主役を張ることはおそらくこれまでなかった化石たちであり、普段(?)馴染みのない卵分類名が飛び交う会場内はだいぶ新鮮である。写真のように、巣化石についてはその方向についてのキャプションがあるのが非常にありがたい。
撮影スポットと化していたプロバクトロサウルス(言うまでもないがホロタイプのキャストである)。常設展にもあるのだが、こちらの方がずっと観察しやすい。頭骨のアーティファクトには目をつぶりたいところではある。
ボロンBolongの幼体は浙江省自然史博物館と福井県博が共同で記載した標本である。ハドロサウルス上科で全身が関節した生後数ヶ月の幼体というのは極めてまれ(というか本標本だけだろう)で、その重要性については言うまでもない。
ずいぶんよくみる顔になったエウヘロプス。改めて見ると割と歪んでいたりもする。
目玉のひとつ、トルヴォサウルス・ガーニーイ(名無しだった懐かしき日々よ)のホロタイプ。上顎骨の丈いっぱいに押し込められた歯根がよくわかる。
同じく本展の目玉のひとつ、トルヴォサウルス(たぶんガーニーイ)の巣と胚。歯が付いているので上顎骨や歯骨はすぐに目につく。
トルヴォサウルス・タンナーリのおなじみの復元骨格はコンポジットだったりするのだが、基本的によくできている(頭骨の復元も含めて)。このあたり、ジェンセンの仕事の丁寧さがうかがえる。
テリジノサウルス類とされる卵はデンドロウーリトゥス卵科に分類されるが、一方で上のトルヴォサウルスの卵もデンドロウーリトゥス卵科に分類されるという。卵殻に基づく形態分類の限界といえばそれもそうなのだが、系統的にも時代的にもかけ離れたテリジノサウルス類とメガロサウルス類とで卵の形態がよく似ているというのは非常に興味深いところである(テリジノサウルス類ならの卵ならマクロエロンガトウーリスでもよさそうなものだ)。
キャストではあるのだが(言うて今年記載されたばかりである)、扱いの良さは幕張より福井の方がずっと上である。頭骨がこれだけしっかり残っているのが恐ろしい限りでもある。
個人的目玉②、マクロエロンガトウーリス類(大型のオヴィラプトロサウルス類の巣)。卵一つ一つが凶悪なサイズなのだが(左下の消火器に注意)、巣ともなれば正直ドン引きするサイズである。
産地不詳のオヴィラプトロサウルス類の復元骨格。見るからに危険なつくりだが、頸椎や胴椎(の椎体)、仙椎、腸骨は実際に出ているようである。
頭骨はシチパチsp.ことMPC-D 100/42と似ているのだが…?
江西省産の有名な標本(何年か前のミネラルショーで同型のキャストが売られていた)だが、実のところここまできれいに腰帯や後肢が残っていたわけではない(だからといって特段問題のあるアーティファクトではないが)。オヴィラプトロサウルス類の腰帯の立体的な構造がよくわかる標本ではある。
同じく江西省産のオヴィラプトロサウルス類(関節のつながった尾も見事である)だが、こちらも卵をふたつ胎内に抱えた状態だったらしい。この手の標本がポピュラーというよりは、それだけ貴重な標本をかき集めた本展ということだろう。
その辺で死んでる鳥…ではなく、ユロンYulongのホロタイプである。問答無用の保存状態で、文字通り生々しい標本である。
胡散臭さ満点のシノヴェナトル(自称)。原標本の出所やらなんやらが色々と怪しげなのだが、割合ちゃんと骨が出ているようではある。
モンタナはトゥー・メディスン層、エッグ・マウンテン産の“トロオドン”の巣。御船にも同じものが展示されているのだが、迂闊な筆者は上下逆であることに気付いていなかった。
愛らしい“トロオドン”の復元模型。雛がまた愛らしさ抜群である。
問題の「トロオドンの復元骨格」。実際にはエッグ・マウンテン産の部分骨格(ほぼ完全な後肢と尾の一部ほか)MOR 748をベースに、その他のエッグ・マウンテン産の単離した標本(を元にした模型)を組み合わせて制作されたもののようである(下手をするとアルバータ産の標本も直接組み込まれているのかもしれない)。
エッグ・マウンテンのトロオドン類の分類は現状はっきりしていないのだが、どうもステノニコサウルス・イネクアリスの可能性が濃厚なようだ。一方でこの復元骨格の前頭骨はラテニヴェナトリクス型のようにみえる(亀裂などはラテニヴェナトリクスTMP 79.8.1と一致するようにみえ、だとすると頭蓋天井はTMP 79.8.1のキャストを埋め込んだのかもしれない)。
同じ巣の中に複数の形態の卵が混在する例も(時おり)あるという。托卵なのか異常卵なのかは現状はっきりしないが、色々と興味深い。
江西省産のオヴィラプトロサウルス類の巣と骨格(左上)なのはいいとして、オヴィラプトロサウルス類はなぜかしゃがむでもなくうつ伏せに倒れており(後肢を完全に投げ出している)、さらにトカゲ(?)までいるという謎めいた状況である。
特別展の最後を飾るのは、最近「発見」された関門層群下関亜層群産の恐竜の卵である。デンドロウーリトゥス卵科に属する可能性があるといい、だとすればテリジノサウルス類の卵なのかもしれない。
だいぶ展示の紹介を端折ったのが正直なところで、本展のポイントはやはり凶悪な物量の卵(というか巣)化石である。巣の化石はいずれも立体的に観察することができ、時間変化(かつての営巣地に再び訪れて巣を築いた)まで保存されている標本も少なくない。また、特に江西省産の巣化石は見事であり、巣とおとなの骨格が共産する例は(依然として珍しくはあるだろうが)決して稀ではないということを教えてくれる。要はそれだけ貴重な標本をかき集めてきたということに尽きるのだろう。
会期も残りわずかとなったが、そういうわけで(卵化石メインという新鮮さもあり)非常に見ごたえのある特別展であった。2時間ばかり立てこもれば、それだけでずいぶん卵化石に詳しくなること請け合いである。