GET AWAY TRIKE !

恐竜その他について書き散らかす場末ブログ

南半球の角竜たち

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↑左:セレンディパケラトプスSerendipaceratopsの左尺骨
右:ノトケラトプスNotoceratopsの左歯骨 
スケールは10cm Rich et al., 2014より改変

 角竜と言えば北半球の特産である(最近ヨーロッパからもいくらか見つかるようになった)。が、賢明なる読者の皆様にはご存じの方もおられよう。わずかながらに、南半球からも角竜らしき断片的な化石が発見されているのである。

 南半球の角竜の記載は1918年にまでさかのぼる。アルゼンチンのパタゴニア、バヨ・バレアルBajo Barreal層の上部(サントニアン前期(8510万年前)とカンパニアン~マーストリヒチアンの二説あり、年代ははっきりしないようだ。いずれにしても白亜紀後期の後半ではある)から発見されたほぼ完全な歯骨が角竜のものと同定され、ノトケラトプス・ボナレリイNotoceratops bonarellii命名されたのである。
 1929年にヒューネ(ちょくちょく存在感のある人である)によって詳細な記載がなされ(上の図はヒューネによって描かれたものである)、はっきり角竜と確認された。―――が、その後待てど暮らせど南米から角竜の化石は見つからず、80年代に入ると(なんとなく)角竜であることが疑問視されるようになった。未知の基盤的イグアノドンティアン(ないし、もっと大ざっぱに非ハドロサウルス類鳥脚類)、あるいはセケルノサウルスSecernosaurusである可能性までが指摘されるようになったのである。悲しいかな、いつの間にか模式標本(にして唯一の標本)である歯骨は行方不明となってしまっていた。

 一方、オーストラリアの下部白亜系ではとんでもない代物が発見されていた。93年になって、ヴィクトリアの海岸に広がるウォンタギWonthaggi層(ヴァランギニアン~アプチアン、1億3980万~1億1300万年前 やたら年代がアバウトであるようだ)から、レプトケラトプス(言うまでもなく北米の最上部白亜系産)に酷似した尺骨が発見されたのである。
 当初からこの発見は物議をかもし、すったもんだの末に2003年になってセレンディパケラトプス・アーサーシークラークイSerendipaceratops arthurcclarkei命名された。どっこいこの標本もすんなり角竜と認められるはずもなく、命名される以前から鎧竜、特にオーストラリア産(しかも同年代)であるミンミの一種Minmi sp.(=現クンバラサウルス)とプロポーションがよく似ていることが指摘されていた(ついでに、もう少し若いエウメララEumeralla層からも角竜らしき尺骨が出ているが、これに関しても疑問視されている)。化石が不完全すぎることもあり、今日までもっぱらノトケラトプスとセレンディパケラトプスは疑問名として扱われてきた。

 さて、今年になってリッチ(セレンディパケラトプスの原記載者である)らによって、セレンディパケラトプスそしてノトケラトプスを改めて角竜とする論文が発表されたわけである。セレンディパケラトプスの尺骨について非常に詳細に記載し、数学的な手法を総動員して角竜の尺骨との類似性を明らかにしている(尺骨1本をここまで記載した論文はそうあるまい)。ノトケラトプスに関しても、ヒューネの描いた図を頼りにハドロサウルス類とケラトプス科角竜との比較を試みている。

 なんだかんだ言ってもセレンディパケラトプスは尺骨1本、ノトケラトプスに至っては唯一の標本が行方不明であり、角竜とする同定に疑問の余地がないわけではない。ただ、少なくとも角竜の尺骨や歯骨に酷似しているのは明らかであろう。
 仮にセレンディパケラトプスが角竜だとすると、白亜紀の前期にゴンドワナに向かった一派がいたことを示している。この時期、例えばメガラプトル類はアジアとオーストラリアの間になんらかのつながりがあったことを示しており、角竜がゴンドワナへと渡った可能性は十分ある。
 また、ノトケラトプスが角竜だとすれば、かなり派生的な角竜(ケラトプス上科か、あるいはケラトプス科そのものかもしれない)が白亜紀後期にハドロサウルス類と共に南米へ渡った可能性を示している。一応ボリビアの上部白亜系から角竜らしき足跡化石が見つかっているともいい(詳細は不明だが)、関連が気になるところである。

 今回取り上げた化石はいずれも断片的であり、角竜であるかはともかくとして疑問名のステータスから脱出できるかは難しいところである。ただ、両者がもし角竜であれば、角竜の進化史において非常に重要な意味をもつのである。