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恐竜その他について書き散らかす場末ブログ

脆すぎた呪縛

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Carpenter (2018)より、マラアプニサウルス(A)、レバッキサウルス(B)、ヒストリアサウルス(C)の胴椎(後面)の比較。スケールは50cm。

 恐竜の分類が分類の体をなしていないという話(1属1種が多すぎる)はしばしばなされることで、実際問題として属名を出されたときに模式種以外の種をぱっと思い浮かべる属というのは少ないものである。そうした状況の中で数少ない例外のひとつがアンフィコエリアス――「最大の恐竜」として名高い一方標本が行方不明となっていることも相まって伝説的な存在となったA.フラギリムスである。アンフィコエリアスと聞いた時に模式種A.アルトゥスを先に思いつくという人は、たぶん専門家の相談を受けた方がいい。

 アンフィコエリアス・フラギリムスの模式標本AMNH 5777(AMNHのナンバーが付いているのだが、この標本がAMNHの門をくぐったかどうかさえ定かではない)といえば、「コープの図を信用する限り」極めて巨大な竜脚類の胴椎の神経弓ただひとつである。これはコープに曰く「神経弓だけで」高さ1500m(これはmmの誤記のようにも思われるのだが、実のところこの当時「M」をメートル、「m」をミリメートルの略記として用いることがしばしばあったらしい。コープは「M」と「m」を明確に使い分けているフシがあり、従って「1500mm」は最近指摘されたように「1050mm」の誤記というわけではなく、実際に「1500mm」を示している可能性が高いようだ。)に達する代物で、コープによって新種とされた一方、一時はもっぱらA.アルトゥスの極端な大型個体とみなされていた。
 さて、アンフィコエリアス属のうちA.アルトゥスは系統解析にしばしばぶち込まれ、最近では一般にディプロドクス科の最基盤(ディプロドクス亜科とアパトサウルス亜科の分岐する前の段階)に置かれている。従ってA.フラギリムスの全長の推定はざっくりディプロドクスに準拠していたのだが(A.アルトゥスの見てくれはアパトサウルスのようにがっしりしたタイプではない)、一方で一部(のアマチュア)からは、A.フラギリムスをレバッキサウルス類とみなす声も上がっていた。

(そもそも原記載の時点において、A.フラギリムスをアンフィコエリアス属たらしめる強い根拠は何もなかった。当時胴椎の形態のはっきりしていた竜脚類はカマラサウルスとアンフィコエリアスくらいであり、単にコープが参照できるものが限られていただけの話だったのである。)

 このあたりの問題に真正面から突っ込んでいったのは、例によってA.フラギリムスの虜になっているカーペンターであった(メガ恐竜展で来日した模型もカーペンターの復元に基づいたものである)。いかんせん残された(ぱっとしない)コープのスケッチ頼りであったが、確かにそこからはレバッキサウルス類の特徴――A.アルトゥスにはみられない――が認められた。
 かくしてA.フラギリムスとA.アルトゥスを結び付けていたもの(実際には端から存在しなかったとさえ言えるわけだが)は崩れ去り、ここにマラアプニサウルス・フラギリムスMaraapunisaurus fragillimus――属名の前半は「巨大」を意味する南部ユテ族の言葉――が生まれることとなった。58mとも言われた(“セイスモサウルス”の全長について最初にまともな推定値を導き出したポールでさえ40~60mという訳の分からない数字を書くほかなかった)推定全長はつまるところアンフィコエリアス属がディプロドクス型の動物だったという前提に基づいていたわけで、リマイサウルスにぶち込んではじき出されたマラアプニサウルスの推定全長は30m~32mと、ずいぶんと(依然として巨大だが)現実的な数値が出てきたのである。

 ここに最大最古のレバッキサウルス類として生まれ変わったマラアプニサウルスだが、依然としてホロタイプは――AMNH 5777は行方不明(というよりこの世に残っていないのがほぼ確実である)のままである。アンフィコエリアス・フラギリムスの呪縛は、アンフィコエリアス・フラギリムスが崩れ去ってなお、ひょっとすると未来永劫あり続けるのだ。