GET AWAY TRIKE !

恐竜その他について書き散らかす場末ブログ

“モノクロニウス・ナシコルヌス”

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Skeletal reconstruction of Centrosaurus apertus
(formerly Monoclonius nasicornus) based on AMNH 5351.
Scale bar is 1m.

 ケラトプス科角竜というと、一般向けの本にはよく「首から後ろに違いはない」的なことが書かれている。実際にはそんなことはないのだが、実際問題、状態のよい体骨格が知られているものはあまり多くない。属/種間の差なのか個体差に過ぎないのか、判断に悩む場合もままあるわけである。さらに言えば、標本があるにも関わらず記載がなされていない場合(トリケラトプスとかトリケラトプスとか)もあり、悩ましい状況が続いている。
 そんなケラトプス科の中で、骨格がよく揃っており、かつよく記載されている筆頭がセントロサウルスである。極めて完全な骨格AMNH 5351(若い成体、前肢の一部を欠く)と、尾を欠く骨格YPM 2015(「ラル教授のセントロサウルス」としておなじみ、老いた成体)はどちらもよく記載されており(幸いフリーなので各自探されたし。わりとすぐ見つかる)、いまだに貴重な情報源となる。

 AMNH 5351が発見されたのは1914年のことである。ご存じバーナム・ブラウン率いるAMNHの遠征隊は当時カナダのレッドディア川を調査しており、川のほとりでこの骨格と出くわしたのだった。
 AMNH 5351は(肋骨が倒れ、腰帯もばらけかけてはいたが)ほぼ完全に関節しており、前肢が風化していた以外は完全といっていい状態だった。部分的ながら強膜輪まで残っていたのである。 これほど状態のよい骨格は角竜としては初めてであり(これを凌ぐ標本は未だにないと言ってもよいかもしれない)、その重要性は明らかだった。AMNHとしてはフルクリーニングして組立骨格を作りたかったのだが母岩がやたら固く、やむを得ずウォールマウントとして展示されることになったのである。
 
 ブラウンが1914年に本標本を発見するまで(1913年にはブラキケラトプスも見つかっているが)、ケラトプス科角竜の手足の指の数は分かっていなかった。ゆえに、スミソニアントリケラトプス1906年完成)の手は4本指とされ、後肢にはどこからともなく調達されたハドロサウルス類の足(3本指)をあてがわれていたのである。
 ブラウンはAMNH 5351の手骨格が実質的にトリケラトプスと同じであることを見抜いたのだが、トリケラトプスの手指の数はその後も長らく4本として復元されるケースが相次いだ。後足のつくりや尾の形態(それまではばらけた尾椎しか知られていなかった)も本標本とブラキケラトプスの記載でようやく明らかになり、ここに至ってケラトプス科の体骨格の全貌が見えてきたのである。すでにハッチャーらによる角竜のモノグラフの出版から10年が経っていた。
 ブラウンは論文中に骨格復元図を載せているのだが、今の目で見てもそう古さは感じない。それだけモノが素晴らしかったということでもあるのだろう。

 モノクロニウス属の新種(すでにセントロサウルス属がシノニムとして取り込まれていた)として記載されたAMNH 5351は、その後順当に(?)モノクロニウス属のセントロサウルス亜属へと分離した。その後はしばらく落ち着いたのだが、ドッドソンによって「スティラコサウルスのメス」とされてしまった。とはいえすったもんだの末にセントロサウルス・アペルトゥスとなり、今日に至っている。

 (ところで、AMNH 5351の記載論文には「モノクロニウスの一種の手と足」の図が出ている。この標本(AMNH 5372)の四肢は完全に関節した状態であり、いちはやくクリーニングが行われ、AMNH 5351の補足のために一緒に図示されたのである。この手と足の図は今でも「セントロサウルスの一種」としてよく引用されるのだが、何を隠そうAMNH 5372はスティラコサウルスS. parksiの模式標本にして唯一の標本)だったりする。頭骨のクリーニングが済んでいなかったため、とりあえずモノクロニウスの一種とされていたのであった。)