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恐竜その他について書き散らかす場末ブログ

白亜紀のオウム①

イメージ 1
↑Composite skeletal reconstruction of Psittacosaurus mongoloiensis (top)
and P. sinensis (bottom). Scale bar is 1m.
P. mongoliensis largely based on AMNH 6254 (holotype)
and AMNH 6253 (holotype of "Protiguanodon mongoliense").
P. sinensis largely based on IVPP V738 (holotype), IVPP V740-741
IVPP V749, and BNHM BPV149 (holotype of P. "youngi").
Vertebrae column of IVPP 12-0888-2 (holotype of P. neimongoliensis)
also reffered to.

 プシッタコサウルスといえば白亜紀前期のアジアを代表する恐竜のひとつであり、(少なくとも)モンゴルや中国、ロシアで多数の化石が発見されている。幼体から成体まで様々な成長段階のよく保存された化石が知られているのに加え、遼寧産のものでは尾の羽毛や皮膚痕、果てはメラノソーム(の濃淡まで)まで保存した化石が発見されており、よりどりみどりである。
 プシッタコサウルスはまた属内の多様性も大きいらしいことがよく知られており、(研究者によって当然意見は分かれるが)今日でももっぱら以下の種が有効とされている(とりあえず主に2010年のセレノのレビューに従っておく。疑問名は割と省略)。

 プシッタコサウルス・モンゴリエンシスP. mongoliensis
  シノニム:P.ティンギtingiP.オズボーニosborni
       P.グーヤンゲンシスguyangensis
       プロティグアノドン・モンゴリエンゼProtiguanodon mongoliense
 プシッタコサウルス・シネンシスP. sinensis
  シノニム:P.ヤンギyoungi、?P.オルドスエンシスP. ordosensis
 プシッタコサウルス・シンチャンゲンシスP. xinjiangensis 
 プシッタコサウルス・メイレインゲンシスP. meileyingensis
 プシッタコサウルス・ネイモンゴリエンシスP. neimongoliensis
 プシッタコサウルス・ルジアトゥネンシスP. lujiatunensis
  シノニム:P.マジョールmajor
       ホンシャノサウルス・ホウイHongshanosaurus houi
 プシッタコサウルス・シビリクスP. sibiricus
 プシッタコサウルス・ゴビエンシスP. gobiensis

 今日でもこれだけの種が有効とされているあたりから察していただけようが、プシッタコサウルス属の種は形態的にもなかなか多様である。が、例によって(組み立てられた全身骨格が意外なほど少ないという事情もあってか)そのあたりがよく知られているとは言い難い。
 というわけで(前置きがいつも通り長い)、(一応不定期の)シリーズものとしてプシッタコサウルスの種(のうち骨格図がまともに描けそうなもの)について紹介していきたいと思う。第1回ということで、日本語の本でもよくペアで取り上げられる模式種P.モンゴリエンシスとP.シネンシスについて適当に書きたい。

プシッタコサウルス・モンゴリエンシスPsittacosaurus mongoliensis
イメージ 2
↑Composite skeletal reconstruction of P. mongoliensis
largely based on AMNH 6254 (holotype)
and AMNH 6253 (holotype of "Protiguanodon mongoliense").
Scale bar is 50cm for AMNH 6254.

 プシッタコサウルス属の模式種であり、その名の通り元々はモンゴルのフフテグKhukhtek層(白亜紀前期アプチアン~アルビアン;ざっと1億2100万~1億1300万年前ごろのいつか)から産出したものである。その後フフテグ層のひとつ上のシネフダグShinekhudag層(アルビアン;ざっと1億1000万年前ごろ)や、内モンゴル各地のアプチアン~アルビアンの地層、そして遼寧の熱河Jehol層群九佛堂Jiufotang層(白亜紀前期アプチアン;ざっと1億2100万年前ごろ)からも化石が産出するようになった。生存期間はどうもかなり長いらしく(もっとも、アジアの内陸部の地層の時代/年代論が難しいのは言うまでもないのだが)、現時点で知られている分布もかなり広いあたり、よく成功した種であるらしい。化石は幼体から成体(骨格図は成体を描いている)まで揃っており、全身をそっくり復元することができる。
 本種はプシッタコサウルス属としてはそこそこのサイズであり、既知のプシッタコサウルス属の中では(半ば例外的に)小顔で後肢が長い。頭骨も例外的に前後に長く、頬骨のトゲは短めである(他にはこれといった装飾がみられない。よく目立つ眼瞼骨は「ひさし」を作るものであり、しばしば復元されるような「角」ではないはずである)。目下本種に特有の特徴としては、眼窩前方に「段」があること、座骨先端がねじれて左右幅が広くなっていること(どちらも一応骨格図で確認できる)が挙げられる。P.ティンギP.オズボーニ(どちらも内モンゴルのアプチアン~アルビアン産)プロティグアノドン(フフテグ層産)を本種のシノニムとする意見は広く受け入れられている。また、セレノはP.グーヤンゲンシス内モンゴルのアルビアン~アプチアン産)も本種のシノニムとみなしている。
 本種の化石はこれまでのところ、もっぱら亜熱帯および温帯~冷温帯?の半乾燥気候地帯にある湖やその周辺で形成された地層から発見されている。

プシッタコサウルス・シネンシスPsittacosaurus sinensis
イメージ 3
↑Composite skeletal reconstruction of P. sinensis
largely based on IVPP V738 (holotype), IVPP V740-741
IVPP V749, and BNHM BPV149 (holotype of P. "youngi").
Vertebrae column of IVPP 12-0888-2 (holotype of P. neimongoliensis)
also reffered to.
Scale bar is 50cm for IVPP V738.
 
 古くから知られているプシッタコサウルス属のひとつであり、長い頬トゲもあってか日本語の書籍でもよく紹介されている種である。中国は山東省の青山Qingshan層群Doushan層(アプチアン~アルビアン;例によって年代は不詳)から複数の骨格が発見されており、それらを組み合わせることでほぼ全身を復元することができる。
 上の骨格図は成体であるが、サイズはかなり小さい。頭部が非常に大きく、それと合わせるように首は短い(が、どうも頸椎はP.モンゴリエンシスより一つ多いらしい。一方で胴椎の数はP.モンゴリエンシスと同じようである)。また、前肢が長いのも特徴である。極めて長い頬トゲに加えて、眼窩の後縁にはちょっとしたコブ状の隆起がみられ、何か大きなウロコの起点になっていたのかもしれない。吻骨が下向きに長く伸びていることや下顎が短めなことも本種の特徴である。同じ地層から産出したP.ヤンギは本種のシノニムとして広く受け入れられている。甘粛省産のP.オルドスエンシスはしばしば疑問名として扱われるが、本種のシノニムの可能性もあるようだ。
 本種の生息環境はとりあえず亜熱帯気候であり、P.“オルドスエンシス”の場合は季節的に乾燥する場所だったらしい。

 どうやってもまとまるわけがない記事なのだが、P.モンゴリエンシスとP.シネンシスはそれぞれ(今のところ地域的にオーバーラップはしないようだが)広い範囲に分布していたことが知られている。両者はある意味プシッタコサウルス属内の形態変異の両極に位置する種であり、生態の違いを想像するのも楽しいところである。

 今回の記事を書くにあたってSさんに多大な資料提供をいただきました。この場を借りて御礼をば。