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恐竜その他について書き散らかす場末ブログ

モノクロニウスの鼓動

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↑Skeletal reconstruction of "Monoclonius lowei" CMN 8790.
Scale bar is 1m.

 たまにはサクッとした記事を書こうと思ったわけである(理由はあんまりない)。いい加減最近クソ長い記事が板についてきた(書くのがしんどいのでよくない傾向である)ので、初心に帰って(?)角竜の小話といきたい。

 さて、角竜の命名ラッシュがこのところずっと続いているのは本ブログの読者の皆様には説明不要だろう。「新発見」だけでなく既知の標本の再検討も盛んにおこなわれており、古参(?)の恐竜ファンにとっても目が離せない状況がここ7、8年続いているわけである。
 モノクロニウスといえば最初期に命名された角竜のひとつであり、セントロサウルスも巻き込んで非常にややこしい状況を作り出してきた。ややこしい状況は1990年代まで続き、比較的最近になってようやく落ち着いた―――(セントロサウルス・アペルトゥスのシノニムとされたいくつかの種を除き)モノクロニウスは疑問名となったのだった(関連記事)。つまるところ、モノクロニウスのフリルの形態は典型的な派生的セントロサウルス類の大型幼体(この場合一般に「亜成体」と呼ばれているが、恐らく性成熟はしておらず、そういう意味では大型幼体と呼んだ方が適切であるように思われる)と形態的に区別できなかったのである。
 が、一連の「モノクロニウスの頭骨」の中でもひとつ妙なものがあった。カナダはアルバータ州ダイナソーパークDinosaur Park層(模式種M.クラッススの産出したジュディス・リバー層ではないことに注意)から産出した“モノクロニウス・ロウェイMonoclonius lowei”のホロタイプCMN 8790である。

 CMN 8790がダイナソー・パーク層の最上部付近(カンパニアン後期;7580万年前ごろ)で発見されたのは1937年のことで(まだまだ絶好調のチャールズ・モートラム・スターンバーグによる)、1940年にチャールズ・モートラム自身によってモノクロニウス属の新種M.ロウェイとして記載された。当時すでにモノクロニウス属とセントロサウルス属の分類学的な問題は(さんざん)指摘されていたのだが、チャールズ・モートラムは(特に目立って伸びる縁頭頂骨がないことからCMN 8790をモノクロニウス属とみなすとともに)本種とセントロサウルス属の間にフリルの他にもいくつかの違いを見出し、これらをはっきり別の属とみなしたのである。
 CMN 8790はかくして最も完全なモノクロニウスの頭骨の座に収まった。上下にかなり押しつぶされてはいたものの、ほぼ全体(右側はかなり損傷しており、加えて病変でフリルの右側は酷く変形していた)が残されていたのである。こうしてモノクロニウスの独自性がはっきり示された―――が、1990年代に行われた分類学的再検討で残されたモノクロニウス属は全て疑問名送りとなった。はずだった。

 モノクロニウスは(ひょっとすれば未知の分類群の)大型幼体の寄せ集めとみなされたわけで、CMN 8790も(チャールズ・モートラムがしっかり見抜いた通り)頭骨の癒合はあまり進んでおらず、はっきりと縫合線が残っていた。が、CMN 8790はその辺の下手なセントロサウルス(の亜成体~成体)よりもよっぽど大きかったのである。
 ドッドソンはこの事実に着目し、CMN 8790にみられる「未成熟な」フリルは幼形進化の産物であること―――つまりCMN 8790はかなり成長が進んでいるものとみなした。さらにそこから一歩踏み込んで、(M.ロウェイをM.クラッススのシノニムとみなし)モノクロニウス・クラッススが有効な種であることを示唆したのである(これを踏まえ、The Dinosauria第2版には「おそらく有効なセントロサウルス類」としてM.クラッススがリストアップされている)。

 もっとも、M.クラッススを(おそらく)有効な種とみなすこの意見には反対も強かった。CMN 8790が未成熟の個体であることは明らかだったし、まして(結局のところ典型的な派生的セントロサウルス類の未成熟個体と区別のできない)フリルしか残っていないM.クラッススと(違う地層から産出している)CMN 8790を結び付けることには無理があった。
 とはいえCMN 8790の再検討が必要であることは明らかで、結果CMN 8790が長いP3(第3縁頭頂骨)をもっているらしいことが明らかになった。つまり、セントロサウルス類の各種を特徴づけるホーンレットを発達させつつある成長段階にあった(=幼形進化したわけではない)のである。

 CMN 8790の産出したダイナソー・パーク層最上部では他にはっきりしたセントロサウルス類が産出していない。モンタナのトゥー・メディスンTwo Medicine層上部ではP3がよく発達するセントロサウルス類―――エイニオサウルスとアケロウサウルスが産出するのだが、これらはCMN 8790よりも7、80万年ほど後の時代のものらしい(トゥー・メディスン層産セントロサウルス類でCMN 8790と時代がモロに被るのはルベオサウルスだが、こちらはP4もよく伸びるし、P3の伸びる方向も明らかに異なる)。
 また、CMN 8790はセントロサウルス類としては非常に長い頭頂骨をもち、亜成体であるとはいえ、エイニオサウルスやアケロウサウルスとはかなり異なった形態を示している(CMN 8790の前上顎骨もセントロサウルス類としては長く発達しており、これはスティラコサウルスと共通する特徴である)。

 現状CMN 8790の分類ははっきり定まってはいないのだが、こうした事情もあって最近では独立種である可能性がささやかれるようになった。モノクロニウス属が復活する可能性はゼロといってよいのだが、“モノクロニウス”・ロウェイが再び日の目を見る日は案外近いのかもしれない。