GET AWAY TRIKE !

恐竜その他について書き散らかす場末ブログ

或る鎧竜の死

↑Holotype skeleton of Kunbarrasaurus ieversi. From The Telegraph.

 ミンミといえばオーストラリアを代表する恐竜のひとつであり、その属名の独特の語感とかわいらしいスタイルで鎧竜のアイドルであった。実のところ有名な「ミンミの全身骨格(上の写真)」はミンミ・パラヴァーテブラMinmi paravertebraの模式標本ではなかったのだが、いかんせん見てくれのインパクトもあってこの標本QM F18101(マラソン標本)が有名になってしまったのである。
 さて、肝心のミンミ・パラヴァーテブラの模式標本QM F10329はといえば、胴椎が11個に“傍椎骨”、肋骨の破片がいくらかと、断片的な手骨格、いくらかの皮骨のみであった。いかんせん断片的な標本ではあったが、追加標本たるマラソン標本(実のところ模式標本よりやや新しい地層からの産出である)がかなり完全であったため、このあたりはなかなか顧みられることがなかった。

 ところでミンミ最大の特徴とされていたのが“傍椎骨”である。結局のところこれは骨化した腱の一種だったのだが、この種の骨化腱をもつ恐竜はミンミのみ(マラソン標本にも同様のものがみられた)とされていた。
 が、ここまで書いて察された方も少なくないだろう。“傍椎骨”と呼ばれていたタイプの骨化腱はヨーロッパのノドサウルス類であるハンガロサウルスHungarosaurusでも確認された。ほかの「ミンミ独自の特徴」も、別段ミンミ特有ではないことが明らかになり、今年の夏(元になったArbourの博論が出たのは去年の春である)になってとうとうミンミの模式標本には独自の特徴が確認できないことが指摘された。ミンミは疑問名になってしまったのである。

 結局のところマラソン標本は“傍椎骨”に基づきミンミ属に(半ば暫定的に)ぶち込まれていたわけであり、ミンミ属が疑問名になってしまった以上、新たな名前を与える必要があった(マラソン標本の独自性は確かだったのである)。かくして、「ミンミの全身骨格」は、新属新種クンバラサウルス・イエヴァーシKunbarrasaurus ieversiとしてこのたび記載されたのであった。

(属名の"kunbarra"は発見場所であるクイーンズランド周辺にかつて暮らしていたアボリジニの言葉で、「盾」を意味するという。種小名はマラソン標本の発見者への献名である)

 クンバラサウルスの頭骨は今回ようやく完全な記載がおこなわれた(これまでの記載は中途半端なクリーニングの状態であった)。CTスキャンもおこなわれ、鼻孔内部の構造がかなり複雑化し始めていること、内耳がやたらデカいことなども確認された。
 ミンミを疑問名に追いやったArbour and Currie(2015)の系統解析では、(これまでも幾度か指摘されてきたとおり)クンバラサウルスは最も基盤的なアンキロサウリアとされた。最も基盤的であり、かつ最も完全な化石の知られているアンキロサウリアであるクンバラサウルスの首から後ろは未だ詳細な記載がおこなわれていない。ミンミは記憶の彼方へ過ぎ去ったが、問題はここからである。