GET AWAY TRIKE !

恐竜その他について書き散らかす場末ブログ

森に棲むデュラハン

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↑Skeletal reconstruction of Agathaumas sylvestris AMNH 4000.
Scale bar is 1m.

 角竜の化石といえば頭骨ばかり・・・ということは読者のみなさまもとうにお気付きのことだと思う。多くの角竜がほとんど頭骨のみに基づいて命名されていたりもするのだが、実のところ最初に命名された角竜―――アガタウマス・シルヴェストリスには首がなかった。

 初めて科学的に記載された角竜は、悪名高きジュディス・リバーJudith river層から1855年に産出した一本の歯であり、トラコドン・ミラビリスTrachodon mirabilisの第2標本とされた。それから17年後の1872年、ワイオミングのランス層で巨大な恐竜の化石が発見された。
 発掘の応援に駆け付けたコープは、植物化石に囲まれた骨格に大きな感銘を受けた。腸骨は当時知られていた恐竜のものよりずっと長かったのである。この恐竜が地球史上最大の陸生動物であることを確信したコープは、この骨格にアガタウマス(非常に驚くべきもの)の属名を、共産した植物化石にちなんでシルヴェストリス(森に住むもの―――シルバニアファミリーとかそこらと語源は同じ)の種小名を与えたのだった。
 「世界最大」の恐竜を記載したコープであったが、問題がひとつ残っていた。アガタウマスには頭骨が全く残っておらず、実のところどのような姿の恐竜だったのか、見当がつかなかったのである。従って、さすがのコープもこの時「アガタウマス科」を設立するようなことはしなかったのだった。
 
 この判断はやむを得なかったのだが、結果的にコープは泣きを見ることになった。1888年になってジュディス・リバー層で産出した角に基づきマーシュは新属ケラトプスを命名し、そして1890年になってケラトプス科を設立したのである。
 続々と発表されるマーシュのケラトプス科に関する論文を読んでアガタウマス(やモノクロニウス、ポリオナクス)が同じグループに属する恐竜であることを悟ったコープは慌てて「アガタウマス科」を設立したが、時すでに遅し(1891年)だった。ケラトプスをモノクロニウスのジュニアシノニムにしたりトリケラトプスをポリオナクスのジュニアシノニムにしたりと頑張ったコープだったが、もはやどうにもならなかったのである(1893年にライデッカーがトリケラトプス・プロルススをアガタウマス属にしてみたりはしたが、その程度がやっとであった)。
 コープが1898年に亡くなると、アガタウマスの模式標本は他のコープコレクションと共にAMNHへと引き取られ、そこでAMNH 4000のナンバーを得た。

 「角竜の最初の発見」こそ逃したとはいえ勝利(?)をおさめたマーシュとゆかいな仲間たち(主にハッチャーとラル)であったが、アガタウマス・シルヴェストリスは一応有効な種であると考えていた。仙椎の特徴から、モノクロニウスとトリケラトプスの中間にあたると考えていたのである(一方で、やはり首なしであることについては問題視している)。
 とはいえ、その後の研究でアガタウマスは疑問名となってしまった。首なしゆえにトリケラトプストロサウルス、ネドケラトプスとの比較が困難であり、これらのシニアシノニムとすることもためらわれての結果である。

 さて、コープの図を元にアガタウマス・シルヴェストリスの骨格図をでっち上げた筆者であるが、なんだかんだトリケラトプスとは毛色が違うようにも思える。
 アガタウマスは明らかに亜成体(を通り越して大型幼体かもしれない。胴椎の癒合が進んでいないのはもちろんのこと、仙椎が完全にバラバラである)なのだが、レイモンド(亜成体ではあるが、アガタウマスよりはずっと成熟している)などと比べると、相対的にだいぶ腸骨が長いように見える(あくまでも私感である)。また、腸骨が腹側にカーブしていないらしい点もトリケラトプスとは異なっているように思える。

(もっとも、アガタウマスと同様の成長段階にあるトリケラトプス(の体骨格)の標本は記載されておらず、きちんとした比較はできない。腸骨が腹側にカーブしていない(側面から見た時に直線的)のも、地圧で変形した結果かもしれない。)

 なんだかんだ書いたが、結局のところアガタウマスの正体については謎である。頭骨が見つかっていない以上、本種の名前が有効名に返り咲くことはほぼありえないだろう。もっとも、既知の種の亜成体かどうかはっきりしないのも現状である。

(ところで、一般に「アガタウマスの復元図」として知られる有名なナイトの絵は、実のところアガタウマス・スフェノケラス―――モノクロニウス・スフェノケラスに基づくものである。当時知られていた角竜の要素が色々とごちゃ混ぜになってはいるが、1897年当時の角竜のイメージを知ることができる。)