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恐竜その他について書き散らかす場末ブログ

うさんくさいティラノばなし

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Tyrannosaurus rex "robust morph" FMNH PR 2081. Scale bar is 1m.

 いわゆる、「ティラノサウルスの性的二形」については(その妥当性はともかく)ご存知の方が多いだろう。四肢の太さなどに基づき、「がっしり型」と「きゃしゃ型」に分けることができるというのである。「がっしり型」のほうが骨盤の幅が広いらしく、座骨や血道弓の形態も産卵向きであるらしいことから、「がっしり型=メス」「きゃしゃ型=オス」と解釈されることが多かった。
 また、ティラノサウルス・“エックス”について、聞き覚えのある方もおられるだろう。頭骨にみられるいくつかの違いから、ティラノサウルス属に新たな種を設けるべきという意見があるのだ。

 「がっしり型」と「きゃしゃ型」は、T. "x"のなかでもみられる。骨盤の幅や血道弓の形態うんぬんについてはその後色々あって疑問視されている部分が大きいのだが、「がっしり型」のある標本(MOR 1125)に髄様骨(現生鳥類は産卵直前に形成する)が確認されたことから、やはり「がっしり型」がメスで、「きゃしゃ型」がオスである可能性が指摘されている。

 P. Larson(2008)はその辺について色々と論じているのだが、実のところ産出層準うんぬんについては触れていない。では、産出層準うんぬんを考慮してみるとどうなるのだろう?

 ここから書く話は、筆者のとあるメル友(ポーランド在住…?)がしばらく前に教えてくれた話である。彼の言うところでは(恐ろしいことにG.ポールにメール凸したらしい)、もしかすると某研究者らが共同で論文にするかも、とのことであった。もちろん、出版されることなく立ち消える可能性も十分ある。


 P. Larson(2008)は、複数のティラノサウルスの標本について、四肢骨の長さと直径の関係などから「がっしり型」と「きゃしゃ型」に区分している。また、頭骨にみられるいくつかの違いに基づき、T.レックスからT.“エックス”を分離している。また、N. Larson(2008)にも「がっしり型」と「きゃしゃ型」の区分が出ている。
 これらの標本のうち、ある程度産出層準の情報が出版されているものについて、ものすごく大雑把に分けてみると、

ヘル・クリーク層上部(M3の上部も含む)
MOR 980 (T. rex;きゃしゃ型)
MOR 555 (T. rex;きゃしゃ型)
BHI 3033(T.rex;きゃしゃ型)
??AMNH 5027(T. "x";きゃしゃ型?)

ヘル・クリーク層下部(M3の下部も含む)
MOR 1128 (T. rex;がっしり型)
MOR 1125 (T. rex;がっしり型)
FMNH PR2081 (T. rex;がっしり型)
?CM 9380(T. rex;がっしり型)

(※並び順は相対的な層準を意味するものではない。AMNH 5027は下部からの産出である可能性もままある)

 標本の数が少なくてなんとも言えないところが大きいのだが、とりあえず気が付かれただろう。ヘル・クリーク層産でかつ産出層準の情報が公表されているものに限って言えば、「がっしり型」は下部から、「きゃしゃ型」は上部から産出するようにみえるのだ。
 では、ヘル・クリーク層以外ではどうだろう。以前の記事で触れたが、カナダのスコラード層とフレンチマン層は、ヘル・クリーク層のU3(上部)と対比できる。
 スコラード層産の標本TMP 81.12.1は「きゃしゃ型」とされている。一方で、フレンチマン層産の標本RSM 2523.8は「がっしり型」とされている。

 実際のところ、「がっしり型」と「きゃしゃ型」が年代と絡んでくるものなのかは現状よくわからない(なにしろ、情報がこれっぽっちである)。ただ、「がっしり型」と「きゃしゃ型」が単純にメスとオスの差を表しているかといえば、そういうわけでもなさそうではある。案外、T.レックスとT.“エックス”にみられる違いが性的二形、というオチもありそうではある。
 とかなんとか書きつつ、色々な意味でこの話が怪しいのはまぁ皆様お察しの通りである。結局のところ、ちゃんと記載されているティラノサウルスの標本はかなり少ないのだ。
 とはいえ、この辺の話は(ラーソン兄弟以外のメンバーも入れて)包括的にやると何がしか見えてきそうではある。出版されるかどうかも分からないが、とりあえず進行中らしい研究に期待したい。