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恐竜その他について書き散らかす場末ブログ

世界最大の恐竜博2002始末記⑤ セイスモサウルスの行方

イメージ 1Lucas et al., 2006より、“セイスモサウルス”の記載された骨要素を示す。
尾椎に割り振られた番号の変化に注意

 さて、いよいよ大本命である。世界最大の恐竜博2002の目玉だったのが、“セイスモサウルス・ハロルムSeismosaurus hallorum”である。色々と日本と縁の深い恐竜でもあり、むしろ本種の復元骨格を製作・展示するために開催されたのが恐竜博2002と言っても過言ではない(というか、恐らく企画の意図はそれである)。のっけから学名に“”を付けている時点で不穏な空気が流れているが、恐らくご存知の方も多かろう。

 最初に結論を述べておく。現在、セイスモサウルスは属としての有効性をもたないとのことでコンセンサスが得られている。さらに突っ込んでいえば、恐らく種としての有効性ももたない(これについても、実質的にコンセンサスが得られている)。
 セイスモサウルス・ハロルムはディプロドクス属、それも恐らくディプロドクス・ロングスDiplodocus longusのジュニアシノニムである。

 セイスモサウルスが発見されたのは1979年のことであるが、発掘が開始されたのは85年になってからだった。86年に「ブラキオサウルス科の新属新種」とする予察的な報告がなされ、全長30~37mと推定された。
 この時点でセイスモサウルスの仮称が与えられ、次いで最新機器(音響トモグラフィー、地中レーダー、etc)が導入され、92年まで発掘が続けられた。

 まだ発掘の終わっていない(驚かれる方がいるかもしれないが、割とよくある話である)91年の時点で、セイスモサウルスの正式な命名・記載がおこなわれた。この時、クリーニングの完了していた骨盤の一部と血道弓を元に39~52m(!)、尾椎の一部を元に28~36mと全長が推定された。そして、大きい方がより可能性が高いとされたのである。

 さて、ここで異論をあげたのはみんな大好きG.ポールであった。95年(より以前)の時点でセイスモサウルスの全長を30~34mと推定し、骨格図を描き上げたのである。その後他の研究者からも全長に関する異論が噴出した。

 92年に発掘は終わったが、当然その後いつ果てるとも知らないクリーニング作業が続いた。当初「全身骨格は確実」とまで言われたセイスモサウルスであったが、結局採集されたのは部分的な胴体と尾に過ぎなかった(結局、期待された音響トモグラフィーは大した役には立たなかった)。頸椎らしき破片もいくつか発見されたが、保存が悪く(頸椎かどうかすらも怪しいらしい)研究に使える代物ではなかった。
(のちに、発掘現場の側で発見された部分的な大腿骨はセイスモサウルスの模式標本と同一個体であるとされた)
 その後、恐竜博2002のために全身骨格が復元されることになり、急ピッチでクリーニングが進んだ。完全には終わらなかったものの、ひとまず復元骨格のためにキャスト製作にこぎつけ、ディプロドクスやバロサウルスを元に復元作業が進められた。

 復元作業が進むにつれ、重要な事実が判明した。原記載で第19~27(?)番とされた尾椎は、もっと近位のものであったのである。それらは復元作業の結果15~26番に割り当てられ、そして全長35mの復元骨格が姿を現した。

 復元骨格はその後北九州市立博物館とニューメキシコ自然史博物館に展示されることとなったのだが、その裏―――むしろ表―――恐竜博2002の会場でクリーニング作業は続いていた。そしてクリーニングが終了した時、とんでもない事実が判明したのである。

 上述の通り、セイスモサウルスの尾椎の一部について原記載では19~27番とされていたが、復元骨格の製作の際、もう少し近位に移ることが判明したわけである。さらにその後の研究で11~19番であることが判明した。これによって尾は縮小し、全長は33m程度と推定されたのである。
 駄目押しというか、とどめの一撃は座骨だった。セイスモサウルスの座骨の先端はフック状に突出しており、ディプロドクス属と区別する上で重要な特徴であった。復元骨格でも当然この特徴が再現されたのであるが、その後のクリーニングで、フック状の突出は尾椎の棘突起の折れたものが付着していただけであることが判明したのである。棘突起とコンクリーション化した砂岩(化石と色がよく似ていた)とがしっかりと結着しており、今まで誤認されていたのであった。

 すでにそれ以前の研究によって、セイスモサウルスが座骨のフック状突起を除いてディプロドクス属と酷似していることは知られていた。こうしてセイスモサウルスは属としての有効性を失ったのである。一応ディプロドクス・ハロルムとされた“セイスモサウルス”であったが、その論文の末尾にて、D.ロングスのシノニムである可能性について触れている。
 ディプロドクスの種に関する詳細な研究がおこなわれていない現状“セイスモサウルス”をD.ロングスのシノニムと断定するのは難しい部分もあるのだが、複数の研究者からその可能性が指摘されている。
 
 こうして、セイスモサウルスは幻と消えた。その全長についても、さらに小さい29~30mとする声が出ている(筆者としても、こちらが妥当な気がする)。「世界最大」は露と消え、そして全長35mの復元骨格だけが残ったのだった。

◆追記◆
 すったもんだの果てに、ディプロドクス・ロングスが疑問名になるという衝撃の展開があった。ディプロドクス属の模式種はD.カーネギーイに変更され、さらにディプロドクス・ロングスの実質的な代替名として、ディプロドクス・ハロルムが返り咲くことになった。最後の最後(もっとも、当然今後も研究は続く)で大逆転(?)となったわけである。