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恐竜その他について書き散らかす場末ブログ

モリソンの影

↑ディスロコサウルスの唯一の標本AC 663 後肢に末節骨が5つみられる点に注意
 図はPaleofile.comより

 白亜紀末期の北米産竜脚類と言えば、(色々論議もあるにはあるが)ひとまずアラモサウルスのみが一般に知られている。アラモサウルスの分布はユタ州以南に限られており、何らかの要素が北方への進出を妨げていたことを示唆している。(一応、ワイオミング州エヴァンストンEvanston層からアラモサウルスの一種とされる化石が出ているらしいのだが…詳細不明。同じ地層からはトリケラトプスとされる下顎も産出している)
 さて、ワイオミングのランス層と言えばトリケラトプスの名産地なのだが、実はここからとんでもない化石が見つかっている。
 ディスロコサウルス、といってどれほどの方がピンとくるだろうか。ディスロコサウルス・ポリオニキウスDyslocosaurus polyonychiusこそ、ランス層最大の“問題児”である。

 いつごろ発見されたのかきちんとした情報がない(20世紀の初めごろと思われる)が、本種は(当然のごとく模式標本のみ)は部分的な前後肢のみが知られている。竜脚類なのはまぁいいとして、問題は本種の特徴であった。1983年になってようやく完全なクリーニングが行われた本標本(AC 663)の距骨と第Ⅰ中足骨には、ディプロドクス科と共通する特徴がみられたのである。

 ランス層産とされていただけあって、ディプロドクス科の特徴がみられたという事実は大きかった。そして、本種の産地に関する記録は乏しく、産出層準の確認は困難だったのである。結局、化石の色やらなんやら(ついでに放射性だった)から、モリソンMorrison層(ジュラ紀後期、1億5630万~1億4680万年前。北米のジュラ紀後期の恐竜を産出する)産とされたのだった。これなら、ディプロドクス科としてもおかしくないわけである。

 ところで、本種の後肢には4ないし5個の末節骨(爪の芯になる骨)が存在するとされている。一般的な竜脚類では後肢の末節骨が存在する指は3本のみであり、わりあいに珍しい特徴である。(後肢の末節骨が4つある竜脚類(ティタノサウルス形類?)が白亜紀前期の北米に生息していたことは足跡化石から示唆されているが…

 ところがどっこい、セレノとウィルソンはこれを真っ向から否定した。ランス層産の化石であることに間違いはなく、ティタノサウルス類と獣脚類(の末節骨)とのキメラだというのである。

 結局、本種についてそれ以上の研究は進んでいないと言ってよい。ランス層産にしろモリソン層産にしろ、一応辻褄は合ってしまうのである。
 とりあえず、ディスロコサウルスの第Ⅰ中足骨にみられる「ディプロドクス科の特徴」はティタノサウルス類にもみられる特徴であることを書き加えて、今回の結びとしたい。